教室を拡大しながら、8週、9週と講義を続けていたある日、1人の生徒から声がかかりました。

「先生、うちの会社に来てくれませんか」。

 それが台湾の財閥系コングロマリット、中国力覇集団。

 僕はそこのデパート部門の責任者として、経営陣に迎え入れられたのです。

 その後は遠東集団に。こちらも生徒からの誘いでした。

 優秀な秘書を24時間体制でつけられて、至れり尽くせり。

 そんなつもりはなかったのに、気づけばグループ中核会社の事業COO(最高執行責任者)になっているんだから驚きです。

 デパート事業といっても、僕は伊勢丹でも子会社出身だったし、事業のほんの一端を経験していただけ。

 また新しいことにチャレンジする局面に立っていました。

 妙なことになっちゃったなぁと思いながらも台湾に居続けたのは、台湾人の気質や文化性が気に入ったから。

 日本の東北や九州の田舎のような、あったかくて、緩やかな雰囲気がいい。

 象徴的なのが、彼らが口癖のように言う「没有弁法」。

「しょうがないよ」という意味で、「やってみてダメだったものは仕方ない。諦めて次に行こう」という潔さがある。

 変にしがみつかない、この価値観が僕も好きなんです。

役職なんて自慢にならないから
「社長」とは呼ばせない

 僕は出世にはあまり興味がなかったけれど、どういうわけか、いつのまにかそれなりの役職に就かせてもらいました。

 でも、僕のことを「社長」と呼ぶ社員は誰もいない。

 肩書きがどう変わっても、いつも僕は「中野さんって呼んでね」と言ってきました。

「僕、今日はたまたま社長をやっているけれど、明日には辞めて、公園の清掃員をやっているかもしれないから」ってね。

 事実、会社の役職なんて、ただのポジションに過ぎず、それぞれの責任の範囲の違う役割を担っているだけ。

 人格とはまったく別で、社長だからって踏ん反り返るのはおかしい。

 仮に社長がエライとしたって、世の中には社長なんてたくさんいるじゃないですか。