この体験を細密な観察に基づいた漫画で再現した作品が、『刑務所の中』でした。身もふたもないタイトルですが、記憶だけで描いたと思われる漫画は緻密です。獄中生活の細部を淡々と描いていて、毎日の食事、作業の手順、房内での過ごし方、トイレの使い方、風呂の入り方、季節の行事などが細かい描線で記録されています。

 札幌刑務所もハビランド形式に近く、彼が描く戸外の様子などは、奈良監獄ミュージアムを歩きながら「花輪和一の漫画に近い光景だ」と思いました。漫画で描かれた空間と、目の前の本物の空間を見比べることができる、よくできた展示です。

 展示のアートディレクターは、有名商品のパッケージや企業のCI(コーポレート・アイデンティティー)、シンボルマークで有名な佐藤卓と、仏ルーブル美術館ランス別館などで知られる展示デザイナー、アドリアン・ガルデール。

 なお、6月25日に開業する「星のや奈良監獄」は、独居房10室をぶち抜いたスイートルームが48室並ぶラグジュアリーホテルで、1泊14万7000円~だそうです。ミュージアム訪問と併せて宿泊すれば、異世界を探索するような特別な旅行となりそうです。

 訪問前に、花輪和一の中世日本の民俗世界につながるような刑務所漫画と、山下洋輔の時間と空間が交錯する監獄建築小説を読むと、一段と異世界に溶け込むことができるでしょう。『ドバラダ門』は36年前、『刑務所の中』は26年前に出版された分厚くて重い本ですが、両方とも電子書籍があります。

花輪和一が逮捕される原因となったと思われるモデルガンの絵の大きなパネル花輪和一作品。モデルガンの絵の大パネル Photo by K.T.
花輪和一の刑務所を題材にした作品花輪和一の刑務所を題材にした作品 Photo by K.T.
山下洋輔『ドバラダ門』と花輪和一『刑務所の中』山下洋輔『ドバラダ門』と花輪和一『刑務所の中』 Photo by K.T.
【星のや奈良監獄】旧奈良監獄の外観【星のや奈良監獄】旧奈良監獄外観、放射状のハビランド・システム中央部 Photo:星野リゾート