理由の3つ目。様々な人と接することで、キャラクターの引き出しが増えるため。大学までとは違い、仕事で相手にする人間は、自分とは違った多種多様な人間です。否応なしに、苦手な人とも関わります。たくさんの人間像が得られます。
理由の4つ目。決まった時間に働く経験は、作家になってからも、毎日ちゃんと執筆を続けるための自己管理に活かされます。
有名編集者も笑った
年240万円の生活
最低限の社会人経験を経た後は、いつ作家を目指しても大丈夫です。20代中頃以降、何歳からでも作家を目指してよいと思います。
まだ就職前の若い方に伝えたいのは、この社会人経験が、自分のプライドを左右する可能性があることです。
思い返せば、私の一番の強みは、プライドがなかったこと。原稿を書き終えてすぐに編集者に送れるのは、「この原稿じゃ恥ずかしいかな」というプライドがないから。専業作家になれたのは、「この収入じゃ足りない」というプライドがなかったから。
プライドがなかったのは、生来の性質もあると思いますが、いわゆる肉体労働に従事していた経験や、ダンスインストラクターとしてあまり裕福でない家庭の子どもたちとも付き合っていた経験が、庶民的な感覚の土台になっているような気がします。
編集者は兼業作家に「まだ仕事を辞めないでください」とよく言います。ちゃんとした暮らしができるまで、辞めないでください。そう言います。
ある時気づいたのですが、東京の出版社の人が言う「ちゃんとした暮らし」は、結構ハードルが高い。年収600万円以上のイメージです。都会のインテリ層の感覚です。
一方、地方に住んでいて、給料も高くない、学歴も普通の私は、240万円でも暮らせると踏んでいました。近所のスーパーの当時18円の特売コロッケ2個と、農家の祖母から届く米で暮らせば、一食40円足らずで暮らせるという計算です。この計算を披露したら、専業になるのを心配していた超有名編集者も笑ってくれました。
作家になってからも、初めて直木賞候補になった時点(デビュー後1年半)で家賃2万7000円。その後引っ越しましたが、それでもしばらくは6万円台。固定費を抑えていました。
作家で食っていくために
執筆業以外の収入を作る
『作家で食っていく方法』(今村翔吾、SBクリエイティブ)
高学歴・高収入の人ほど、専業作家になるのに、精神的なハードルがあると思います。プライドです。作家で食っていきたいという確たる目標が就職前からあるなら、あまり高給すぎる仕事は選ばない方がいいかもしれません。
あるいは、高給職を選ぶ場合は、兼業作家としての基盤ではなく、専業作家になるまでの貯金と割り切った方がいいかもしれません。例えば、弁護士経験を活かした作品を数々発表している新川帆立先生は、収入のために国家資格取得を目指したそうです。
このように、社会人経験は、作家になるための戦略になり得ます。
会社員としての高待遇をどう捉えるかは自分の考え方次第ですが、いずれにせよ、なるべく人と接する機会のある仕事を選ぶとよいと思います。







