円谷 前回(2021年)の改訂で、東証プライム上場企業の取締役会における社外取の数を3分の1以上にするよう求めたため、社外取の数は順調に増え、その意味ではCGコードの導入は成功しています。しかし、この10年を顧みれば反省点もあります。
円谷 昭一(つむらや しょういち) 一橋大学大学院経営管理研究科教授 2001年一橋大学商学部卒業。2006年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。埼玉大学経済学部専任講師・准教授を経て、2021年4月より現職。2007年より日本IR協議会客員研究員。専門は、財務会計、ディスクロージャー、コーポレートガバナンス。2020年 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー、金融庁2025年「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」メンバーなど、多数の委員会メンバーを歴任。近著に『ガバナンス「本当にそうなのか?」-大量データからみる真実-2』など。
株主からすれば、企業が現預金を溜め込んで投資しないなら、自分たちに還元してくれればしかるべき有望な企業に再投資するという言い分になる。その結果、株主に強く言われて、企業自身が現預金を成長分野への投資に回すのではなく、単なる株主還元、つまり配当や自社株買いに向かってしまった。日本には車も電気機器も半導体も要素技術は全部あった。成長分野に投資するリスクを取っていれば、日本からGAFAやテスラのような企業も生まれたかもしれないのに(笑)。
秋山 技術はあっても、そのような発想ができるかどうかということもありますし、難しいですね。今回の改訂のポイントはどこにあるのでしょう。
社外取の役割はモニタリングへと舵を切る
円谷 ひとつはコードの大幅なスリム化です。現行版は対象となるコンプライ・オア・エクスプレイン(コードを遵守するか、実施しない場合は理由を説明しなければならない)の原則(コード)が83個あります。2015年の策定以来、世界各国のガバナンスコードの「いいところ取り」をした結果、世界最長になりました。それを30個に減らしました。
秋山 ルールが減るのは一見楽そうですが、企業にとってはむしろ難しくなったわけですよね。83個のときは、実効性はともかく、それさえ守っていれば世界標準のガバナンスの形が機械的に整うしくみになっており、担当者も経営陣にルールだからやらなければならないと説明できた。
円谷 シンプルな原則だけにして、あとは自分で考えて結果で示して下さいということになりました。
秋山 より企業の主体性と決意が試されるコードになったわけですね。担当者も、ルールだからという言い方で経営陣を説得できなくなった。
円谷 もう一点、今回の重大な改訂として、取締役会がマネジメントモデルからモニタリングモデルへ舵を切ったことが挙げられます。現行版では、社外取の役割として筆頭に「助言」が置かれ、「監督」は2番目でした。この10年は社外取の数を増やすことが目標でしたから、社外取を入れやすくするためにアドバイザーとしての側面を前面に出していたのです。
秋山 監督すると言うと、誰も入れたくないだろうから、アドバイスする人ですよと(笑)。
円谷 それが今回の改訂では、文言は一切変えず、監督、助言の順になった。文言が変わっていないので見落とされがちですが、金融庁からの強いメッセージだと私は捉えています。社外取の数は十分増えたので、次はモニタリングの力を発揮する段階に移った。金融庁の言葉を借りれば、この10年間は第1弾ロケットで成層圏を越えた、次は第2弾ロケットで目的地を目指すということです。独立社外取が過半数である指名委員会や報酬委員会の設置も明記されました。
秋山 監督というと、経営に失敗したら経営者の首が切られるといった恐ろしげなイメージが浮かびますね。
円谷 いえいえ。日本では実質的に期中での経営者の解任は皆無です。監督という行為は、経営者を脅かすことではなく、企業価値向上へのプロセスを見ていくことです。
言ってみればパラリンピックのマラソン競技における伴走者のようなもので、執行側が企業価値向上という道から逸れずに走っているときは口出しせず、道から外れそうになった時に軌道修正を促す。任期更新の際に再任すべきかを判断します。
秋山 後継者指名についても、社内の事情を知らない社外取に勝手に決められてたまるか、と息巻く人もいるようですが、指名委員会や社外取が社長候補を勝手に探してきて決めるわけでもない。
円谷 企業の執行側が候補者を選ぶプロセスが適切かどうかを見るのが指名委員会の役割です。ただ、現状では有価証券報告書などに、候補者を面談して厳正に選んだといった程度のことしか書かれていない。指名のプロセスをもっと透明化すべきであり、どういう基準でその人を選んだのかを、指名委員長が自分の言葉で外部に語る機会を増やすべきというのが、今回のコードに盛り込まれた方向性です。
ちなみに、改訂の中に明記はされなかったのですが、同じ人が社外取として長年にわたり選任され続けている企業も多く、社外取の独立性を担保するのが難しくなるため、社外取の任期も議論の俎上に載っています。







