元CFO自身は、ヒアリングで動機をこう語ったといいます。
「FX取引で損失を重ねたことで自己の資金繰りが悪化し、会社資金に手を付けた」
「会社資金に手を付けることはバレると思っていたが、常識的な思考ができずに泥沼にはまってしまった」
公認会計士の常務取締役が重ねたその場しのぎの不正の数々と、上司の不審な行動に気づきながら踏み出せなかった部下たち。両者の間に流れた重たい時間が、報告書の言葉から伝わってきます。
上場企業の「牽制機能」は
なぜ働かなかったのか
報告書は、原因分析のトップに「元CFOへの権限の集中」を据えています。
続いて挙げられているのは、「管理統括部内における牽制機能の欠如」や「監査等委員会監査を軽視する姿勢」、そして「元CFOに対して意見を言えない・言わない組織風土」といった項目です。
数字も、構造の歪みを物語っています。
8人の取締役のうち業務執行取締役は社長と元CFOの2人のみ。取締役会の開催時間は約20分から70分。過去3年間のコンプライアンス相談窓口への通報は1件、第三者委員会が開設した情報提供窓口への提供は0件でした。
本連載の著者、白井敬祐さんの新刊『会計が面白いほどわかるミステリ 決算書に隠された7つの罪』が発売されました
本来であれば牽制が幾重にも働くはずの上場企業で、なぜここまで不正が長引いたのか。
報告書を読み返すと、公認会計士やCFOという肩書、そして立場に信頼し切ってしまった組織の危うさを強く感じます。
送金から承認まで一人で完結できる権限、業務執行ラインの下で動く内部監査、CFO自らが通報先のコンプライアンス相談窓口……いずれの牽制機能も十分には働きませんでした。
報告書を読みながら、筆者がどうしても頭から離れないのは、中堅幹部社員たちチャットに繰り返し出てくる、あの言葉です。
「何かがおかしいと思っているのに、踏み出せず……」
権力を盾にした不正が通用しないよう上場企業が講じるべき対策は、信頼関係に頼ることではなく、明確なルールと仕組みだといえるかもしれません。







