仕事が好きになれば、工夫と努力を続ける力がわいてきます。また、倦まず創意工夫を重ね、たゆまず努力を続けていけば、名人・達人と呼ばれるレベルに到達することも可能となるのです
出典:稲盛和夫著『ど真剣に生きる』(NHK 出版 生活人新書)

社長に慰留されても
辞意は変わらず

 稲盛が魅せられたのは、「フォルステライト」という新しいセラミック材料の合成だ。

 セラミックの研究に情熱を注いでいると、その熱意が買われて、特磁課の主任へと昇進。部下を持つ身になると、かつての自分を鼓舞するかのように、こんなふうに自分たちの仕事の意義を熱弁したという。

我々の作っている部品に少しでも不良があると、テレビの映像が乱れてしまう。我々は、世の中の役に立つ最先端の仕事をしているのです
出典:『ど真剣に生きる』(NHK 出版 生活人新書)

 だが、「人間万事塞翁が馬」、何が起こるかわからないのが人生だ。

 組織人なら、なおそうである。新任の技術部長の判断によって、稲盛は大きなプロジェクトのメンバーから外されることになる。

 すると、いきなり稲盛は冒頭のような辞意を表明し、周囲の度肝を抜いた。技術部長も慌てて慰留し、社長まで出て来て引き留められたという。

 だが、かくいう筆者も実は経験があるのだが、「そうか、辞めればいいのか」という選択肢が浮かんだら、もはや元の気持ちで働くのは難しい。稲盛もまた、一度離れた気持ちが戻ることはなかった。

 驚いた部下たちが寮に押し寄せてくると、稲盛はこうつぶやいた。

「こうなったら自分で会社をやってみるか」

 新会社の立ち上げである。稲盛は8人のメンバーとともに、新たな門出を迎えることとなった。

 のちに「京セラ」として知られるようになる、「京都セラミック」が誕生した瞬間である。

京セラPhoto:SOPA Images/gettyimages