投資銀行ジェフリーズのシニア・テクノロジー・アナリスト、ブレント・ティル氏は「AIが消費者向けから企業基幹システムへと移行する中で、MicrosoftやOpenAIからの信じられないほどの圧力がAnthropicを極端な野心へと駆り立てている」と指摘しました。数百億ドル規模のインフラ投資を回収する経済的現実が、設立時の倫理を押しつぶしつつある、という分析です。

 Anthropicの財務指標の推移を並べると、この競争圧力の実体がよくわかります。

「安全性の旗手」は看板を下ろしたのか?AI時代、人間が最後に担うべき役割とは

 わずか4カ月で評価額は4倍、年換算収益は3倍を超えました。2026年5月時点では、9000億ドル超の評価額での新規調達協議に入っているとBloombergが報じており、2026年中のIPOも視野に入っています。「AIの安全性にまつわる原則は、競争と資本の圧力に耐えられるか」――現時点で、Anthropicが自ら示した答えは「完全には耐えられなかった」です。

米国防総省のもう1つの圧力
「サプライチェーン・リスク指定」

 Anthropicが直面しているのは、商業競争の圧力だけではありません。

 同社は利用規約で、自社のAIを大量監視や、人間の関与なしに攻撃判断を行う完全自律型兵器に使用することを明確に禁止してきました。この原則は、前回論じた「AIに憲法を与え、性格を設計する」思想と地続きのものです。AIがどう使われる“べきでないか”を、先に言語化して公開する。それがAnthropicの一貫した立場でした。

 トランプ政権下の国防総省はこの利用規約に反発しました。2026年2月27日、米国防総省はAnthropicを米国企業では初めて「国家安全保障上のサプライチェーン・リスク」に指定しました。連邦政府調達からの実質的な排除を可能にする、きわめて重い措置です。同社は政府関連の契約の多くを失うことになりました。

 この出来事には二重の皮肉があります。第一に、原則を守り倫理を貫けば貫くほど、大きな市場を失い、経済的には追い詰められるということ。第二に、政府からの売上を失ったことで、民間セクターでの強硬な商業化圧力がさらに強まったことです。