なぜ不眠症のリスク判定が
調査ごとに異なるのか

 心血管疾患は、大きな公衆衛生問題である。リスク要因には高血圧、糖尿病、肥満などがある。ここでも研究ごとに、不眠症と心血管疾患の関係については相反した結果が出ている。研究によって調査対象者数が大きく異なることが理由かもしれない。

 いくつかの研究では、うつ病が不眠症と心血管疾患の関連性を説明する重要な要因かもしれないという調査結果から、精神の健康状態も考慮に入れている。主観的な睡眠の問題を訴える人の多くはうつ病を経験しており、心血管疾患の独立した危険因子となる。

 およそ3000人の中年女性を対象とした2024年のある研究では、うつ病の症状の有無にかかわらず、不眠症と心血管疾患の間に関連があることがわかった。別の研究では米国の研究者たちが22年間にわたって同じ被験者を追跡調査し、重度の慢性不眠症の症状を持つ女性は心血管疾患のリスクが51%高いという結果が出ていた。

 ただし、女性の場合、不眠症は睡眠時無呼吸症候群の一症状のことがある。更年期以降では同症候群のリスクは2倍となり、有病率は高まる傾向がある。米国の研究者たちは同症候群の症状であるいびきを測定し、結果への影響を推計した。

 とはいえいびきは女性の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の指標として適切ではなく、この症状の測定のみでは調査報告として不充分だとも結論づけている。

 したがって、睡眠時無呼吸症候群の有病率とそれが研究結果に与える影響は過小評価されている可能性がある。つまり、想定しうる臨床診断の結果が分析に含まれていなかったため、心血管疾患関連のリスクは不眠症によって上昇したのではなく、潜在的な睡眠時無呼吸症候群が引き起こした可能性があるとも考えられるのだ。

睡眠の短さや不眠症は
ガンの発症リスクを高めるか?

 公衆衛生上、心血管疾患以外の主な死因はもちろんガンである。睡眠の短さや不眠症は特定のガンの発症リスクを高めるだろうか?またも、研究ごとに結果は相違している。研究者のシーによる2020年のある調査では、不眠症がガンのリスクを24%高めること、ただしこれは甲状腺ガンと女性についてのみ有意であることがわかった。

 この研究によれば、不眠症と甲状腺ガンの相関関係は、甲状腺刺激ホルモンの増加と関係している可能性がある。しかし、この研究は64時間睡眠をとらなかった被験者に焦点を絞っており、不眠症患者にそのまま当てはめることはできない。

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 さらに、シーによるその2020年の調査は、因果関係の可能性について早急に結論を出さないようにとも警告していた。限られた数の研究しか行われておらず、潜在的な偏りの危険性があったからだ。睡眠時間とガンとの関連性についてのメタ分析では、睡眠時間の長短にかかわらず、ガンの発症リスクの増加との関連はなかったことが示されている。

 総合すると、睡眠時間の短さや不眠症と、高血圧、糖尿病やその他の心血管疾患の危険因子の関連性は研究でわかっている。ただ、問題を引き起こすのが果たして睡眠の短さや不眠なのかは明らかでない。他の要因、例えばうつ病などの精神的な健康状態や睡眠薬の影響、他の疾患が併存する可能性などがあるためだ。

 ガンに関しては、睡眠時間の長短との関連は見られなかった。不眠症と疾病の因果関係について、確固たる結論を導き出すのは難しい。つまり、不眠症、睡眠不足と慢性疾患の間に想定されてきた因果関係は、それほど単純ではないということだ。