スタートアップ最前線医療AIスタートアップmedimo代表取締役社長の中原楊氏(左)と代表取締役の馬劭昂氏 Photo by Yuhei Iwamoto

売上高2兆円超、時価総額4000億円超の医薬品卸大手スズケン が、医療AIスタートアップmedimo(メディモ)の完全買収に踏み切った。medimoが手掛けるAIカルテ作成支援サービスは、提供開始から2年弱で全国1000件以上の導入実績を誇る。長期連載『スタートアップ最前線』の本稿では、創業90年超の大企業とスタートアップのM&Aの舞台裏を当事者たちに聞いた。(ダイヤモンド・オンライン編集委員 岩本有平)

慶應・東大・聖マリアンナの医学生が起業
音声AI活用で電子カルテを数秒で作成

 スタートアップがIPO(新規上場)やM&Aを行い、未公開株の売却を行って経営陣や既存株主が利益を得ることをスタートアップの世界では「イグジット」と呼ぶ。

 だが、今回のM&Aはそんなものではない。買収完了で一息つくどころか、むしろスタートアップとして資金調達を実行し、さらなる成長のために意識を高めていくタイミングだ――。

 こう口々に語るのは、医薬品卸大手スズケンに買収された医療AIスタートアップmedimo代表取締役社長の中原楊氏と代表取締役の馬劭昂氏だ。

 スズケンは2月、生成AIを活用した医療文書作成支援AIを手掛けるmedimoの株式を100%取得し、子会社化したと発表した。買収額は非公開。

 medimoの創業は2022年4月。創業メンバーの中原氏は慶應義塾大学医学部出身で、馬氏は東京大学医学部の出身(現在休学中)である。同じく創業メンバーで、現在は顧問を務める野村怜太郎氏は聖マリアンナ医科大学医学部の出身で、それぞれ医学部在学中から起業の道に踏み出した。

 医学部生スタートアップとして幾つかの起業アイデアを試行錯誤している中、当時まだ今ほど一般化していなかった生成AIに触れたことが、現在のサービスにつながった。

 同社が展開する医療文書作成サービス「medimo」は、クラーク(医師事務作業補助者)をAI活用で代替するというものだ。米OpenAIの音声認識モデルであるWhisperをベースにしつつ、医療現場に特化したチューニングを重ねたそのシステムは、音声を基にわずか数秒で電子カルテを作成できるとうたう。

 23年の年末にはエンジェル投資家や、独立系ベンチャーキャピタル(VC)のANRIから、プレシードラウンドの資金調達を実施。その後、ヤフー元社長である小澤隆生氏率いるVCのブーストキャピタルなどからも資金調達を進めた。

 当時、創業メンバーはいずれも医学生で、起業家としてどこまでアクセルを踏むべきかの温度感はメンバー間でそろっていなかったという。だが、ANRIのジェネラルパートナーである河野純一郎氏が、起業と学業を両立させるべく、提携の投資契約書に「学業との両立を応援する」という一文を追加して提案してきたことで、その意思を固めたのだという。

 最初の資金調達から先駆けること約半年。ベータ版としてリリースしたmedimoのサービスは、医療従事者からの問い合わせが殺到することになる。スズケンが買収を決断した経緯や狙いについて、次ページでその詳細をお伝えする。