聖域づくりに必死な社員
待ち受ける3つの末路とは
情報を抱え込み続けた社員を待ち受ける末路は、大きく3つあります。
第一は、昇進の道が閉ざされることです。
管理職の仕事は、自分が現場のプレイヤーとして動くことではなく、部下に仕事を任せ、チームとして成果を出すことです。ところが情報を抱え込むような人は、そもそも人に仕事を任せることができません。自分しか知らない業務をつくるため、他人に委任ができず、ずっと現場に張り付いたままになります。その結果、管理職候補として評価されることはなく、年齢を重ねてもプレイヤーのままという状態が続きます。
そして年を経るにつれて、「なぜいつもこの仕事をしなければならないのか」という不満が芽生えます。しかしそれはまさしく自分が引き起こしてきた状況であり、自業自得と言うほかありません。その人は、自分にしかできない◯◯があるから、会社は自分を切り捨てられないはずだと思っていますが、管理職に上がれないのは自分が業務を囲い込んでいるせいだということに気づいていないのです。
こうした例は経理、総務、法務といったバックオフィス部門で多く見られます。人数が少なく、それぞれの担当領域が分かれているために、一人が業務の情報を抱え込みやすいのです。複雑な会計処理のノウハウを10年以上ひとりで抱え込んだ結果、平の経理担当のまま何年も昇進できなかったという話は決して珍しくありません。
第二の末路は、変化への対応力が失われることです。
情報をひとりで抱え込んでいると、改善へのアイデアは生まれません。外部の視点が入らず、フィードバックもない。業務は現在において最適の状態でぐるぐると回り続けるだけです。一方でチームとして知恵を出し合う組織では、意見のぶつかり合いなどのコミュニケーションコストはかかりますが、チームとしての学習が進み、提供するアウトプットの質が上がっていきます。
また、環境が変わることで、業務の聖域をつくる人は一気に劣勢に立たされます。
たとえばAIツールの導入で経理業務の処理時間が大幅に短縮されるとします。AIを使えば短時間でできる仕事を、その人は今まで通りのExcelで何倍もの時間をかけてやっている。しかし業務を囲い込んでいるため、そのやり方を誰も指摘できない。当人は気づかないまま、周囲のニーズや要求スピードに追いつけなくなり、評価が着実に下がっていきます。自分の業務を抱え込むことで守っているつもりのポジションですが、気づけば業務のやり方が時代遅れになっているのです。
第三の末路は、信頼関係が壊れることです。これが3つの中で最も根本的で、しかも本人が気づきにくいものです。
たとえば、経理で業務を囲い込んでいる人は、上司はむろん、同じバックオフィスの人事や総務からも「あの人は協力的でない」という評価を集めることになり、それが蓄積されていきます。今の人事評価は、個人の成果だけでなくチームへの貢献度を重視する方向に変わってきています。情報共有を拒めば、それだけで大きなマイナス評価に直結します。
最も皮肉なのは、本当に困ったときに誰も助けてくれないことです。普段から情報共有を拒んでいる人が、いざというときに援助を求めても、周囲の反応は冷ややかです。組織という場所は本来、互いに貢献し合うことで成立しています。相互扶助の関係の恩恵は、与えない人が受け取ることはできないのです。
このように、本人自身にもメリットがない行動をなぜ取るのか。面談などで動機を探っていくと、その心理の奥底には、多くの場合、ノウハウを手放すことで自分の存在価値がなくなるという根深い恐怖があります。漠然とした自己肯定感の低さ、後ろ盾がないと自分を肯定できないという心理が、防衛反応として表れているのです。







