セブン-イレブンよりドン・キホーテに魅力を感じるワケ
現在の店舗空間に対して心ときめく瞬間は皆無に等しい。明確な用事を持たない限り、あるいは特定の商品を欲していない限り、自発的に足を踏み入れる機会は激減した。効率化と均質化が極限まで進んだ結果、偶然の出会いや発見の喜びは失われ、目的のない人間を引き寄せる空間としての魅力は確実に消え失せている。
目的を持たずとも消費者を吸い寄せる場所の代替として、現在猛烈な勢いを見せているのがディスカウントストアのドン・キホーテである。
店内は無秩序に見えて、極めて精緻に計算された迷路である。自身では絶対に購入しないであろう奇抜なアイデア商品、圧倒的な色彩、洪水のような広告が所狭しと密集している。
天井近くまで積み上げられた段ボール箱のすき間から、予想もつかない商品が顔をのぞかせる。空間全体が強烈な娯楽として機能しており、歩を進めるだけで視覚情報が絶え間なく脳を刺激する。
多様な商品群を手に取り、驚き、あきれ、笑いながら店内を回遊する。滞在時間は容易に数十分を超え、私は、ミネラルウォーターを1本購入して帰路についたりしている。
この私のミネラルウォーター1本を買うためだけに複雑な通路を歩く行動こそが、現代の消費者がドン・キホーテに対して抱く新たな忠誠心の発露ではないだろうか。
商品を安く買うためだけに来店しているのではない。空間が提供する圧倒的な非日常性と発見の喜びに、人々は無意識のうちに引き寄せられ、時間を消費することを良しとしている。
「顧客のために」ではなく「顧客の立場で」考えよ
鈴木氏が経営哲学の中心として繰り返し説き続けた言葉がある。
「顧客のために」ではなく「顧客の立場で」考えよという原則である。両者は似て非なる概念である。
「ために」という言葉には、提供者側からの上から目線が含まれている。企業が良いものを作ったから提供してやる、という自己満足の論理である。
「立場で」という言葉は、徹底的な自己否定を要求する。
自社の都合、コスト構造、過去の成功体験、社内政治。あらゆる供給側の事情を完全に白紙に戻し、純粋な消費者の目で自社のサービスを見つめ直す――。痛みを伴う作業である。
なぜなら人間は本能的に現状維持を望み、自らの過去を肯定したがる生き物だからだ。しかし、己を捨て去り他者の視点を持つ覚悟を持たない組織に、顧客の心を動かす体験など作れるはずがない。







