一方、中国は北京や上海の空港が混雑していたこと、独占的な国営企業の存在から、民間の航空自由化があまり進まなかった。LCCとして存在感を示せたのは、春秋航空くらい。そのためLCCが国内線に占めるシェアは約10%という低さだ。数百キロ単位の移動は、総距離5万km超を誇る、高速鉄道が担うようになった。

 中国内航空市場の年間旅客輸送量は5億人超(2025年)と世界最大規模ではあるものの、鉄道の乗客数42億5500万人(同)と比べるとかなり少ない。鉄道は在来線も含んだ数ではあるものの、中国では日本以上に高速鉄道が馴染み深い交通手段として今後も普及するといえるだろう。

現地の実態に合っていない!
中国が押し付けた「過剰さ」

 もうお分かりだろう、高速・大量・長距離の移動需要を作りあげた交通手段の違いを考えれば、東南アジアの高速鉄道が「失敗」といっても過言ではない理由は明確だ。

 LCCに慣れた東南アジア諸国の人々にとって、高速鉄道という新たな選択肢はハードルが高い。よっぽど、市街地の近くから出発できるとか、余計な手続きが不要だとか、車内が快適で魅力ですよ、などと明確な差別化が必要になる。

 中国の高速鉄道は大半の駅が郊外にあり、駅舎に入るには手荷物・身体検査が必要で、出発間際までホームに入れず待合スペースで待機する。中国が建設に関わったラオス、インドネシアもこのスタイルだ。

 このスタイルは、大人数でも安全かつ短時間で乗降でき、防犯性能が高いメリットがある。一方で、日本の新幹線のように切符を買ったらすぐホームに行って乗れるという感覚はない。ほとんど飛行機の搭乗手続きと変わらない感覚で、デメリットにも感じる。

「インドネシアは日本の新幹線を選ぶべきだった」と言う人が知らない、中国高速鉄道が東南アジアで苦戦する本当の理由中国式高速鉄道は、日本の新幹線のように切符を買ったらすぐホームに行って乗れる感覚とは異なる Photo:China News Service /gettyimages

 ゆえに、インドネシアのジャカルタ~スラバヤ間(約800km)や、ベトナムのハノイ~ホーチミン(約1500km)のような長距離では、かなり不利だ。よほどの鉄道好きでもない限り、より短時間で移動でき、しかも安いLCCを使うだろう。

 もちろん中国の高速鉄道には時速350kmという世界最速のスピード、食堂車や寝台車など充実したサービス、在来線駅への接続など多くの強みがある。

 しかし、それはあくまで広大な中国国内の移動で力を発揮するものだろう。現在開通したジャカルタ~バンドン(約160km)のような短距離では「過剰性能」になってしまう。

 なお、160kmという距離は、新幹線で例えると東京から軽井沢くらいに相当する。ただし、ジャカルタの高速鉄道ハリム駅は東京駅に相当せず、新木場駅か北千住駅くらい都心部から離れている。バンドンはそこそこ有名な観光地だが、こちらも中心から離れた場所に駅がある。これで乗客が定着するかというと、疑問しか浮かばない。

 それでもなお「日本の新幹線だったら、うまくいったはずだ」と思う人もいるかもしれない。