「専門家のように書ける」ことと
「専門家として考えられる」ことは別
私たちは、生成AIを使うことで、深い知識がなくても専門家のような文章を書くことができます。しかし、「専門家のように書ける」ことと、「専門家として考えられる」ことは全く別です。
ここで重要なことは、“その事実を自覚しているかどうか”です。
自覚がないと、「これだけのアウトプットを出せたのだから、自分は理解している」と錯覚してしまいます。生成AIは知識だけでなく、「理解している感覚」まで与えやすいのです。
その結果、自分の理解や能力が実際以上に高まったように感じてしまう――これが、大きな問題となるAIがもたらす「偽りの全能感」です。
この「偽りの全能感」の背景には、生成AIの2つの特徴があります。
1つ目は、「読みやすさ」です。AIの文章は自然な言い回しで整理されており、スムーズに読めます。ただ、人には、苦労せずに頭にインプットできた情報ほど、「よく理解できた」と感じやすい傾向があります。
例えば、AIが作成したわかりやすい企画書を見ると、「なるほど、筋が通っている」と感じて、安易にOKを出してしまう。しかし、その裏では、現場の実態や運用負荷、他部署や既存業務への影響、事業方針との整合性などの重要な検証が抜け落ちているかもしれません。
2つ目が、「自分専用感」です。AIは、過去のやり取りを踏まえて、自分向けに最適化された回答を返してくれます。人には、自分専用の情報に対して、無意識に信頼感や親近感を抱きやすい傾向があります。その心地よさゆえに、「理解したつもり」になり、別の視点や反論を検討しなくなってしまうのです。
その結果、応用レベルの議論で行き詰まったり、ファクトチェック不足や、AI特有のウソ(ハルシネーション)を見抜けずに、誤ったレポートを作ったりする危険性が増すのです。(*)
(*)生成AIの利用によって人が「理解したつもり」になってしまう現象は、心理学や認知科学分野における「理解の錯覚(illusion of understanding)」などと共通性のあるテーマとして、研究や議論が進められています。
誰もが陥る心理バイアス
「ダニング=クルーガー効果」
実は、この「わかったつもりになる」こと自体は、AI以前から人に広く見られる現象でした。その代表が、「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれる心理バイアスです。
これは、人が新しいことを学び始めたときなど、まだ能力が十分でない段階では、自分の未熟さを正しく認識できないため、実力以上の自信を持ってしまう現象です。その結果、少し理解が進んだだけで、「もうわかった」と感じてしまうのです。
投資を始めてたまたま利益を出した人が、「才能がある」と思い込んで大損したり、聞きかじりの知識で断定的に語って、専門家に簡単に論破されたりするのは、このバイアスによるものです。少しわかり始めたときが、実は最も危険なのです。
ただ、人は学習を深めるにつれて、自分の理解の浅さに気づくことがあります。そこから、本当の成長が始まるのです。
しかし、そこには大きな個人差があります。すなわち、そもそも「自分が知らないということを知っている人(自覚者)」と、「自分が知らないということを知らない人(無自覚者)」との差です。







