無理をして造らないという計画の結果、将来的に生産量の不足は目に見えてきました。

 そこで計画に上がったのが、三号蔵の建設です。近くにある小学校の反対側の山手に、本蔵のように大規模な土木工事で無機質なビルを建てるのではなく、山に沿うように、自然への侵食を極力少なくする酒蔵にする計画です。

 完成予定は2028年、この蔵では、4号瓶で4万円前後の超高級商品だけを造ります。社長を中心とする社内の議論で、「これ以上中間帯の大吟醸酒を量産して、他の酒蔵の道を奪うのではなく、今、獺祭にしかできない挑戦をすべき」という考えから生まれました。

 造り手は、入社7年目から10年目くらいの選抜メンバーになるでしょう。

 かねてより、若手が主体性を持って酒造りができるよう、「獺祭 登龍門」というブランドで2人1チームの酒造りを行ってきました。これを行うことにした理由は、グループだとチームリーダー以外はやらされ仕事の連続で、仕事に主体性を感じることができず、楽しくないのではないか、という思いからでした。

『獺祭 経営は八転び八起き』書影獺祭 経営は八転び八起き』(桜井博志、西日本出版社)

 期せずして、1人の職人が工程の最初から最後まで責任を持って行うというエルメスのバッグの生産方式と似ています。

 入社3年目から6年目くらいの若い社員が、純米大吟醸を一から造るわけですから、熟練杜氏が率いる蔵ならありえないことです。しかし、造り手を隠してブラインドテストをしたなら、「天才杜氏が造った酒か!」と言われるレベルの酒を彼らは造ってしまいます。

 逆に「入社3年目で立派な酒を造れない酒蔵って何だろう」と思ったりもします。教育システムがおかしいんじゃないかと。寿司の名店で、シャリを握るまでに10年修業する、などというのを聞くと、むしろ理不尽に感じます。

 この「獺祭 登龍門」を経験した彼らが、さらに高みを目指してくれるように、新たな目標に挑戦できる場が三号蔵なのです。