本当の物価上昇率が見えない日本
利上げしないと金利差拡大で円安加速

 5月22日に発表された4月の消費者物価指数の上昇率は、総合指数の前年同月比は1.4%上昇、生鮮食品を除く総合も1.4%上昇にとどまった。一見したところかなり低い。

 しかし、本コラム『ガソリン補助金は年金生活者を不利に、政府の物価対策で「損をする人」はほかにもいる』(26年6月4日付)で指摘したように、これは政府の物価対策が行われているからだ。

 補助・減税などのガソリン関連政策がない場合の4月の消費者物価の対前年同月比上昇率は、1.4% + 0.87% = 2.27%となる。また、エネルギー関連の政策効果を全て除けば、4月の消費者物価の対前年同月比上昇率は2.48%となる。

 いま一つの大変重要な問題は、為替レートだ。

 円安が続いており、5月の大型連休期間を中心に、日本政府による大規模な介入が行われた。しかし、これは一時的な効果しかなかった。最近の円ドルレートは1ドル=160円を超える円安水準になっている。

 この状況を放置すれば、円安がますます進む恐れがある。利上げ路線で米欧などの足並みがそろえば、日本との金利差は、再び拡大する可能性がある。そして、円売り圧力が強まる一因になるだろう。

 日本の外貨準備は主にドル建て資産であり、その中心は米国債だ。

 円安是正のための介入では、その米国債を売ってドル資金を得て、そのドルを売って円を買う。

 ところが米国債が売られると、米国債価格が下がる。つまり、米国債の利回りが上昇する。これが、「日本の高金利がアメリカに『輸出』される」と表現される。

 アメリカのベッセント財務長官も、日本の介入が上記のメカニズムでアメリカの金利を高める結果になることを指摘している。これは日本に対して、円安是正のためには、介入ではなく、利上げを要求するものと解釈することができる。

 なお、米国債市場は非常に大きいので、日本の介入が一時的・限定的なら、米国金利への影響は小さいかもしれない。

 しかし、円安是正のために継続的・大規模にドル売り円買い介入を行えば、米国債売却への警戒が強まり、米国金利に上昇圧力がかかる可能性は高まる。

 日本が利上げを行わず、世界の多くの国が利上げに動けば、日本との金利格差が拡大し、円レートは破滅的な円安状況に陥る危険がある。その意味で、今回の日銀の利上げは当然のものだったということができる。

「状況がわからないから何もしない」という
論理は正しいか?

 では、利上げによって経済活動が縮小するという危険はあるだろうか?

 もちろん、あり得る。ただし多くの場合に、それは投機的な動きを静めるという意味で、望ましいことと評価できるだろう。

 日銀は、26年になってからの3回の政策決定会合(1月、3月、4月)で、利上げを行わなかった。その理由として挙げられたのは、トランプ関税政策の行方がはっきりしないことであり、米イラン戦争の行方が分からないということだった。

 つまり、不確実性が大きいため、状況を完全に把握できないということだった。

 見当が付かないのは事実だ。しかし、金利は一度上げたら元に戻せないというものではない。状況に応じて金利をまた下げるということも十分に可能だ。

 重要なのは、状況が完全につかめないことを理由に現状維持を続け、その結果、手遅れになり、さらにひどい状況にならないようにすることだ。

(注1 「世界の中銀、利上げシフト、中東混乱、インフレ抑止 ECBは3年ぶり0.25%上げ」日本経済新聞2026年6月12日付)。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)