彼らが食事に求めているのは、料理そのものよりも、むしろ料理を取り囲む全体です。
一緒に食事をする相手との、邪魔の入らないゆっくりとした時間。スタッフの行き届いたもてなし。会話を遮らない空間の居心地。これらが整っていれば、料理は「悪くない」程度で十分に満足できます。
一方で、ほぼ満点に近い店――みんなが行きたがる店――には、人が集まります。隣の席は近く、声は響き、料理は流れ作業で運ばれ、滞在時間は暗黙に制限される。多くの人にとって最良の店が、富裕層にとっては必ずしも最良にならないのは、このためです。ものさしが違う、ということです。
さらに、こうした店は富裕層にとって、ほとんどがすでに訪れたことのある店でもあります。情報感度が高く外食の機会も多い彼らは、話題の店には自然と一度は足を運んでいる。会食の相手も同じ階層の方であれば、相手もまた既訪のことが多い。「初めての経験」にならない店は、最初から候補から外れていく、というわけです。
「賛否両論ある店」こそ
富裕層が探している店
評価3.8というゾーンは、どんな店なのでしょうか。それは、「そこそこ良いが、万人受けはしない店」の典型です。評価サイトの点数は、賛成派と反対派が拮抗するほど、3点台後半「3.8前後」に沈みやすい。賛否両論があり、好みがはっきり分かれる店ほど、平均点は中庸に着地するのです。
そして、賛否両論のある店――つまり「尖った店」ほど、特定の人には強く印象に残り、熱狂的に支持されます。万人ウケしないからこそ、ハマる人には、ほかでは代えのきかない一店になる。
例えば、滋賀の郷土料理である鮒寿司、いわゆるなれ寿司です。琵琶湖のニゴロブナを米と塩で長期間発酵させたもので、現存する最古のすしの形と考えられています。平安時代の延喜式にも近江から宮中への貢納の記述があり、与謝蕪村も俳句に詠みました。
一方で、発酵によるチーズのような独特の強い香りは、初めての方を驚かせます。けれども、それを好む方々のあいだでは「珍味中の珍味」「やみつきになる味」と評され、熱烈に求められているのです。







