富裕層は「料理」ではなく
「経験」を買っている

 なぜ、ここまで富裕層は評価軸そのものから離れていくのでしょうか。

 経営学者のジョセフ・パインとジェームズ・ギルモアは、論文「経験経済へようこそ」のなかで、現代の消費は「モノ」から「サービス」へ、さらに「経験」へと、価値の階段を上がっていく、と論じました。顧客が本当にお金を払っている対象は、目の前の料理ではなく、その料理を含む「経験そのもの」だ、というのが議論の核心です。

 富裕層は、まさにこの階段の上のほうで店を選んでいます。買っているのは料理ではなく、大切な人と過ごす時間と、その質を高める空間ともてなし。料理一皿の点数は、満足度を構成する、ごく小さな一要素にすぎません。

 そしてパインらが指摘するように、経験は「その時、その場、その人々と」というかけがえのなさが核です。料理は再現できても、その夜の経験そのものは、二度と再現できません。料理単体を測る評価では、経験全体は最初から測れないのです。

自分にとって「欲しい1点」を
満たしているか

ワインが注がれるグラス写真はイメージです Photo:PIXTA

 この見方は、店選びだけの話ではありません。買い物、サービスの選び方、人脈、情報――あらゆる選択に応用できる考え方です。

 多くの人に評価されているものは、「みんなにとっての最大公約数」を満たしているだけで、自分にとって「欲しい1点」を満たしているとは限りません。本当に大切なのは、自分が、あるいは大切な相手が、何を求めているかを、まず知っていること。そして、その「欲しい1点」が満たされていれば、ほかの条件は思い切って手放す勇気を持つことです。

 会食であれば、ご一緒する相手が「賛」の側に回ってくださる店を、迷わず選ぶ勇気。それが、富裕層が静かに教えてくれる、店選びのコツです。