「有利な条件で独立できる」
という言葉の真意
2009年3月の売却発表記者会見での「なぜ売却するのか?」という質問への中西社長の答えは、こうでした。
「HDDのように技術や市場も目まぐるしく変わり、大きな投資が機動的に必要な事業は、できるだけ独立した経営陣が運営する体制が必要だと以前から考えていた。HDD子会社の最高経営責任者(CEO)を退くときはIPOをやるべきだと考えていた。IPOというのは手放すことと同じ。売り出す相手が一般の株主か事業会社かどうかだけの話だ。そういう意味でこの会社がより有利な条件で独立できるというのはある意味で必然的な動きだと思っていた」(日本経済新聞2009年3月9日より)
IPOとは子会社の株式上場公開、これと事業売却は同じと言い切り、「より有利な条件で独立できる」と言葉はソフトですが、要するに「より高い値段がつく選択肢を取った」と述べています。日本を代表する伝統大企業のトップがこんな米国的発想で意思決定する時代が来たことに、当時、私はいたく感銘を受けました。
その後、日立は大胆な子会社売却と海外IT企業の買収を活発に行い、グローバル市場で戦える日本代表企業として成長・躍進を続けています。この変貌は中西氏のような発想で企業経営の舵取りをするリーダーが会社トップになることによってもたらされました。
会社に値段をつけて売り買いするという資本主義のダイナミズム、株式上場やM&Aに対する経営陣の認識や姿勢が国の経済成長と富の創造を大きく左右するという資本主義の基本メカニズム、を理解する上での貴重なエピソードです。
会社に値段をつけることは
「拝金主義だ」と感じる日本人
そうはいっても、会社に値段をつけて赤の他人が勝手に売り買いすることに反発する気持ちは消えません。会社が売り物になることによって、会社の経営も社員の生活も振り回されてしまいます。
会社の経営者や社員は、事業を通じて社会に価値を提供し世の中を豊かにしていく大きな役割を担っています。にもかかわらず、M&Aに巻き込まれて経営権を巡る戦いに気力体力を消耗し、挙句の果てに会社が買収されてリストラされてしまうかもしれないとしたら、ずいぶん割に合わない役回りです。







