
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている『ケーキの切れない非行少年たち』(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第32話『落胆』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
性の問題行動は「知識」だけでは防げない
栗本陸(仮名)は、相手の同意を得たつもりで性的な行為に及んだものの、後に相手側から被害届を出されます。
そのことを知った陸は、「相手から誘われた」「触っていいと言われた」と訴えます。だから陸は、自分の行為の全てを相手から許されたと受け取ったのでしょう。
しかし、たとえ相手が好意を示していたとしても、ある場面で何かをOKしたとしても、それがその後のすべての身体接触や性的な行為への同意を意味するわけではありません。
子どもの性の問題行動の背景には、情動面や自己制御の未熟さ、不適切な性情報、性的な環境への曝露、家庭や生活上のストレス、境界や同意についての理解不足など、複数の要因が重なっているとされます。そのため、単に性に関する知識を教えるだけでは十分ではありません。
発達特性への支援、トラウマへの配慮、家庭への支援、感情や対人関係といった社会的な情動教育などを組み合わせた、包括的な支援が求められます。
陸は今回の事件によって、少年院送致となりますが、児童養護施設の職員たちは、陸の行為を許されないものとして受け止めながらも、陸という人間まで見捨てるべきではないと考えます。そして、少年院を出た後も、彼を支えていく決意をします。
そんな陸のもとに、幼い頃に別れずっと会うことのなかった母親が突然現れます。
著者が勤務していた少年院でも、少年院送致をきっかけに途絶えていた母親と再び連絡が取れ、面会室で生まれて初めて母親と会う少年がいました。
陸の母親は、「ここを出たら一緒に暮らそう」と唐突に言います。誰かを信じようとしては失望してきた陸にとって、その言葉は大きな意味を持ちました。
自分にも帰る場所があるかもしれない。自分を待ってくれる人がいるかもしれない。そう思えることが、少年院での生活に真摯に取り組み、自分を変えようとする力につながっていきます。
ところが、陸の誕生日の当日、面会に来た母親は、陸の誕生日であることを覚えていませんでした。陸にとって母親は、希望を与えてくれる存在である一方で、再び傷つく可能性を抱えた不安定な存在でもあったのです。
親子関係が回復することは望ましいことです。しかし、その関係を急いで取り戻そうとすることが、いつも本人のためになるとは限りません。支援者には、子どもが抱く期待だけでなく、失望や不安も受け止めながら、無理のない形で親子の関係を整えていく姿勢が求められるのです。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







