「アップルが、新工場を作る金は全部出すからやってくれ、と言ってます」

 私は、即座に「設備一式と建屋の費用を見積って。ラフな金額でいいから。それを大至急アップルに伝え、『その金額を出すのならTMD社は東芝本社を説得する準備を始める』と答えるように」と言った。こうしてTMD社内に新工場建設PJが立ち上がった。

 私自身11月初めと終わりの2回、アップル本社へ出張し、打ち合わせチームメンバーとして交渉を行った。そして12月7日に経営会議にかけたが、何故か事前説明とは異なり、佐々木社長はなかなかOKせず、12月17日の5回目の経営会議でやっと承認された。

 新工場の場所は、TMD社石川工場(石川県川北町)から車で10分くらいの場所、加賀東芝エレクトロニクス内(石川県能美市)に建設することになった。余談だが、この新工場の起工式は、2011年3月10日だった。来賓として、谷本正憲石川県知事(当時)にも出席いただいた。そして、その翌日に東日本大震災が起こった。私は、10日夜に深谷に戻ったが、11日の大震災で深谷の液晶工場も被害を受け稼働ストップとなり4月下旬まで再開できなかった。

 もう一つの主力事業である車載ナビ用液晶は、10月頃から自動車の製造ラインが止まる直前にきているとの悲鳴が複数上がり始めた。車載ナビ用液晶は大きく三つに分かれる。

 一つは自動車メーカー純正ナビ液晶、二つ目はメーカー系ディーラーの純正ナビ液晶、三つ目は市販ナビ用の液晶である。それぞれの売上高割合は、メーカー純正が70パーセント、ディーラー純正が20パーセント、市販が10パーセントであった。

 車載用ナビは、メーカー純正はコンソールパネル埋込みで顧客別車種別にカスタム仕様、ディーラー純正と市販用は外付けであり、ほぼ標準仕様であった。外付けナビは、比較的簡単に他社の液晶に変更可能であった。

 しかし、メーカー純正は、デザインや大きさ等の形状が特殊なものが多く、簡単には他社の液晶には換えられなかった。TMD社内は、全顧客を公平に扱うべきとの考えが強く、客先で対応を変えない方針でいたが、私は全顧客を公平に扱う方針を改め、メーカー純正用を優先して供給することに変更した。

 そして、市販用とディーラー純正ナビのメーカーには、外注化をこれから進めるが時間がかかるので、物量確保のため他社製の採用評価を始めてくれとの説明を行うことにした。