アウディは現状の出荷状況には不満たらたらであったが、全体の状況を隠すことなく説明しようとする姿勢そのものは大変評価してくれた。問題が大きければ大きいほど社長がきちんと対応することが重要であること、不十分なものであってもその時点でできる最善の解決案を作ったこと、それを丁寧に説明することの重要性を痛感した。

 残念ながら市販向けナビの顧客からは、激しい怒りを買った。メーカー純正ナビ用だけでも自社工場の能力を超えてしまっているので、市販向けナビ用は外注を使わざるを得ない。外注は台湾液晶メーカーで現在TMD社が生産指導中である。生産が立ち上がるのは4月以降になってしまう。それまで待って頂くか、それが出来ないのなら大至急他社からの購入を検討していただけないか、と説明した。

 顧客の怒りはすさまじく、

「お前は自分の言っていることを理解しているのか? トヨタや日産のラインを守るためなら、自動車メーカーでない我々は死んでもいいと言っているのだぞ! ソファーにふんぞり返って説明する話じゃないぞ!」

 と言われた。

東芝 転落の深層――経営不祥事と裁判久保 誠『東芝 転落の深層――経営不祥事と裁判』(朝日新聞出版)

 私は即座にソファーから床に土下座して「TMD社のせいで大切なお客様にご迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありません」と繰り返し謝りながら10分ほど経過した。顧客は「これ以上お前の話を聞いていても気分が悪くなるだけだ。とっとと帰れ!」と言って部屋を出て行ってしまった。他の市販向けナビメーカーの反応も同じようなものだった。

 以上のことがあり、TMD社の2010年度決算は経常利益101億円の黒字、前年度の▲361億円の赤字から462億円の改善となった。ちなみに売上高は、2096億円であり前年からは80億円の増収だった。結果論ではあるが、この数字はTMDが長年培ってきた技術力があったからこそ実現できた幸運としか言いようがない。

 2011年4月下旬に佐々木社長から、6月からは代表執行役専務財務担当の示達を受けたが、その時の言葉は「よくやった。しかし、俺が期待したことと方向が少し違っていたが」とのコメントだった。