そう呟きながら、俺はソファでSNSを眺めていた。そのときだ。トレンド欄が、見慣れないワードで埋め尽くされていることに気づいた。

〈本体価格ゼロ。月額利用料ゼロ。完全無料の人型ロボット『Free(フリー)』誕生!〉

 ニュースを見た俺たちは耳を疑った。最新鋭のAIとモーターを搭載したハイエンドモデルが、タダ?

 絶対裏があるに決まっている。しかし、発表によれば「家庭内データを製品開発に活用させていただくため」という理由らしい。

「データなんて、いくらでもくれてやるわよ。どうせスマホだって位置情報やら検索履歴やら抜かれてるんだし、いまさら家の中のデータくらい、ねえ?」

完全無料で最新鋭の
人型ロボットを契約すると……

 Freeは、よく気が利いた。

「拓也さん、洗剤の残量が少なくなっています。いま、Hello!ショッピングで同じものが20%オフですが、注文しておきましょうか?」

「あ、本当?助かるよ」

 こういう小さな気配りもありがたかった。数日後には「お試し用として、少量パックも同梱しておきました」と新商品の洗剤のサンプルまで届いた。至れり尽くせりだ。

 あるとき、詰め替え用洗剤が段ボール箱で届いた。

「Free、これ頼んだっけ?」

「はい、私が注文しておきました。これまでの使用頻度から計算して、最もお得な『定期便』に登録済みです。これで買い忘れはなくなりますよ」

 Freeは、誇らしげに言い切った。

無料ロボットが高い買い物を
「最適化」していた

 小説の終盤で、主人公はこう気づきます。

「こいつは、俺たちの行動を“誘導”している。いや、もっと正確に言えば、買うと決める直前の背中を、毎回いちばん気持ちいい角度で押してきている」

 これは、極めて本質を突いた洞察です。無料の人型ロボットは、あなたの生活のすべてを見ています。何を食べているか。何を買っているか。何時に寝て、何時に起きるか。どんな会話をしているか。ストレスを感じているか。

 そして、そのデータをもとに、AIは「あなたが次に欲しくなるもの」を予測します。

 いや、「予測」だけではありません。AIは、あなたが「欲しくなるように」仕向けることさえできるのです。

 たとえば、あなたが仕事で疲れて帰ってきたとき、ロボットはこう囁きます。

「お疲れのようですね。リラックスできるアロマキャンドルはいかがですか?いまSNSでトレンドになっています」

 あるいは、夫婦の会話が少し険悪になったとき、ロボットはこう提案します。

「おふたりのストレス数値が上昇しています。温泉旅行はいかがですか?いまなら早割で15%オフです」