そうして主人公夫婦はタダより高いものを買わされることになった。夫婦はゴーグル社に騙されたと思っているでしょう。しかし、家庭内データを製品開発に活用するというのはウソではありません。だからこそこの夫婦は、たくさんの買い物をしたわけです。

今や「データ」の
価値は計り知れない

 いまGoogleがなぜ世界で最も価値のある企業の1つなのか。世界中の人々の検索データ、位置情報、興味関心を把握しているからです。

 Amazonが、なぜあらゆる小売業を圧倒しているのか。消費者の購買履歴を完璧に把握し、次に何を買うかを予測できるからです。

 そして、GoogleもAmazonもスマホを主戦場としています。しかしそれは今後、「家の中」に移ります。

 人型ロボットは、あなたの生活の最もプライベートな領域にアクセスします。冷蔵庫の中身、洗濯物の量、会話の内容、家族構成、健康状態。

『2034 未来予測――AI(きみ)のいる明日』書影2034 未来予測――AI(きみ)のいる明日』(中島聡、徳間書店)

 このデータの価値は計り知れません。たとえば、保険会社にとって、あなたの健康状態や生活習慣のデータは喉から手が出るほど欲しい情報です。食品メーカーにとって、あなたの食事内容や嗜好は、マーケティングの宝の山です。製薬会社にとって、あなたの健康不安は、サプリメントの販売チャンスです。

 そして、これらのデータは売買されるでしょう。小説の中では明示されていませんが、ゴーグル社は収集したデータを第三者に販売している可能性が高い。あるいは、そのデータをもとに、他の企業が広告を出稿しているかもしれません。

 つまり、あなたの家の中には、24時間稼働する「監視装置」があり、その情報は企業間で共有され、あなた自身が気づかないうちに、あらゆる方向から「最適化された広告」が降り注ぐのです。