自分の親との関係を考えるとき、多くの人はこの結論を受け容れられないと感じるのではないだろうか。子ども時代をふり返ってみると、親はまちがいなく、とても大きな存在だったし、自分の人生に最も重要な影響を与えたように思える。

 だからこそ私たちは、自分がよくも悪くもこうなったのは、親のせいだと考えがちだ。いま幸せで自信に満ちているなら、それは親の愛とサポートのおかげだと思うだろう。反対に、いま心理的なダメージがあるなら、それは子育てに問題があったせいだと思うかもしれない。

育て方の違いは
大きな差を生まない

 しかし、遺伝学研究が示唆することはここにもあてはまる。遺伝の影響を統制すれば、子育ての違いと子どもの成りゆきの違いとのあいだに相関はなく、あなたという人間が形づくられるうえで親が与えた系統的な影響とは、親からもらった遺伝子によるものなのだ。

 それでもやはり、子育ての影響は思っていたより小さいという事実を受け容れ難いと感じているのなら、前述したふたつの注意点を思い出してほしい。ひとつは、遺伝学研究の結果は対象となった母集団の「可能性」ではなく、「現状」を描写しているにすぎないという点だ。

 親は自分の子どもに違いをもたらすことができる。しかし母集団全体の平均として見れば、育て方の違いが、親が子どもに与える遺伝子の影響を超えて、子どもの成りゆきに違いを生むことはない。子どもの発達のあらゆる側面において、子どもをどの程度導くかは、親によって異なる。

 たとえば言語修得や読み能力など、子どもの認知能力の発達をどの程度後押しするかもそれぞれだ。また、子どもが自己肯定感や自信、意志の強さ、あるいは、パーソナリティの古典的な側面である情動性や社交性を育むのをどのくらい助けるか、反対にどのくらい妨げるかも親によって異なる。

 しかし遺伝の影響を考慮したうえで母集団全体を眺めれば、子育ての違いは子どもの成りゆきの違いに大した影響を与えておらず、子どもの心理的な個人差の半分以上はDNA差異に起因するという結果になる。そして残りの個人差のほとんどは、偶然の環境要因によってもたらされ、そうした環境要因は、親にはコントロールできないものだ。それがどんな要因なのか特定することすらできない。