最近では、何を思い描くにしても、まず空白の状態から始める。データを山ほど投入し、コンピューターコードに「最高」を吐き出させる。
その結果はどんなものか?過去の作家たちを完璧に模倣したAI生成の文章、コピーしてエッジを強調した美術作品だ。直接的だし理解もできるが、やはり偽物だ。サイゴンで1列に並んだ絵描きたちがモネの睡蓮の絵をカンバスに再現するのと同じ意味での偽物ではない。私たち自身の創造性を奪うという意味で偽物なのだ。
これは昔ながらのつらく骨の折れる創作方法を押しのけてしまう。AIは入力に大きく頼っているために、本来の芸術を突き動かす革新的な、枠の外へ出ていこうとする力を欠いている。
「最適化」に限界があることを
サム・アルトマンも認識している
サム・アルトマンのような人たちは最適化という現代理念の伝道者といえるが、一方でそこには、自由市場リバタリアニズムの勝ち組であることへの後ろめたさも伴っている。この後ろめたさは、「最適化」にも限界があるのではないかというやや悲しげな認識として形をとる。
たとえば効果的利他主義の運動に対するサムの見方は、あまり楽観的とはいえない。効果的利他主義とは、主にテックワーカーやインテリの小さなグループが実践している哲学的原則をゆるくまとめたものだ。この組織のウェブサイトによると、効果的利他主義とは「あなたにできる善を最大化することに焦点を当てる」もので、自分の時間とお金を最高に効果的な仕事や慈善活動にどのように使うかを慎重に考えることで実現されるという。
このサイトをぜんぶ読んでいたら、「最高」や「最大化」といった文言だらけでめまいがしてきそうだ。
サムはこの運動への関与を公表せずにいた。彼は分別のあるリアリストで、誰もがあらゆるものを計算として見ているわけでないこともわかっている(注1)。
『最適化幻想 効率が人を幸せにしない理由』(ココ・クルム著、松本剛史訳、新潮社)
なかには計算可能な普遍性をもたないものもあるし、単に個人の好みの問題にすぎないものもある、と彼は考える。ただし個人的な好みであっても、スプレッドシート(編集部注/サム・アルトマンは自身の力で解決可能な社会分野七つをスプレッドシートにまとめて発表している)によって客観的に細かく示すことは可能であるとも。
(注1)2022年末に数十億ドル規模の暗号資産取引所FTXが大暴落した。FTXを創業したのは効果的利他主義者とされる人物たちだったが、運動を率いる気鋭の哲学者ウィリアム・マッカスキルは、この失敗から距離を置こうとした。ツイッターで告白的な謝罪を伝えたマッカスキルは、可能なかぎりの善をなすという戦略は、必ずしも「目的は手段を正当化する」という意味ではないと論じた。実際にマッカスキルは、これまで効果的利他主義について書かれた文章へのリンクを継続した。その問題とは、いかに最大化を最大限に行うか――つまり「善をなす」という単位を、その過程で悪をなすことで失うことなく積み重ねるかということにある。コンピューター科学者であり、効果的利他主義者のエリエゼル・ユドコフスキーは、こう要約している。「義務論から功利主義へ向かう道のりを4分の3進み、そこで立ち止まることだ。あなたはいま、正しい場所にいる。少なくとも神になるまではそこに留まるように」(2022年2月25日、@ESYudkowskyのツイート)







