上司や先輩、マネジャーがロールモデルになる
挑戦し、振り返り、やりがいを感じながら仕事をする――この繰り返しで、人は、より成長していくことができる。しかし、思うようにいかず、つまずいてしまうこともあるだろう。「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」の3つの力を高め、維持していくためには、「原動力」となるものが欠かせない。
松尾 走り続けるためにはエンジンが必要。そのひとつが「思い」です。自分自身が「こうなりたい」「こんなふうに仕事をしていきたい」というビジョンや価値観、「成長したい」という気持ちが、学ぶ力の原動力になります。人は、「自分が成長したい」という気持ちだけでなく、「人からほめられたい」という気持ちもあります。誰にでも承認欲求はありますが、それが高すぎると成長できなくなってしまいます。「学びたい」という成長意欲が思いのメインになるように意識することが大事です。
もうひとつの原動力は、「つながり」です。人間は一人では成長できません。他者とのつながりである「ネットワーク」をどう構築していくかがポイントです。新入社員にとっては、周囲のロールモデルの存在も大きい。上司や先輩の学習意欲が高ければ、「自分もそういうふうになりたい」と考え、高みを目指していくようになりますから。何事も、手本があると身につきやすいですよね。私自身も、周りの研究者や、他の人の書いた論文を手本として研究をしています。
そして、職場の上司や先輩、マネジャーは、新入社員が経験学習のサイクルを回せるように“支援する”ことが大切です。上司や先輩、マネジャー自身がロールモデルとなって、経験から学ぶ力を得る姿勢を新入社員に見せていくのです。
昨今、AIの登場など、世の中や仕事を取り巻く環境が大きく変化していますが、経験から学び取る力が高まれば、誰もがあらゆる状況に適応できるようになります。経験からの学びによって、その時代に合った能力が得られ、社会に貢献できる人材になっていけるのです。
新入社員や若手社員を「指導する」だけではなく、彼ら彼女らが経験から学べるように「支援する」ことが、マネジメントする側の大切な役割なのだ。人材を育成する際には、マネジャー自身が、これまでの仕事のやり方を見直すことも必要だと、松尾教授は語る。
松尾 マネジャーに昇進したばかりの人は、部下に指示を出し、そのとおりにやらせる「指示型」マネジメントになりがちです。実は、このやり方は、レベルの高いマネジメントとは言えません。そもそも、マネジメントの定義は、「他者を通して、事を成し遂げる」こと。すべてを一人で仕切ろうとしたり、「私は、このやり方で成功したから、同じようにやりなさい」と押し付けたりするのではなく、相手に任せて成果を出す「エンパワリングリーダーシップ」に移行していく必要があります。過去に得た知識を捨てて組み直す作業を「アンラーニング」と呼びますが、何でも自分でやってしまうスタイルをアンラーンし、部下の持っている力を引き出していくことが、マネジャーには求められます。
ピーター・ドラッカーは「マネジャーの第一の務めは、人材の強みを引き出すことである」と述べています。育て上手のマネジャーは、その人の弱みを克服させようとすることよりも、強みを見極め、最大限に発揮できるように導くことを重視する傾向にあります。強みは、「個性」と言い換えてもいいでしょう。業績アップに直結する能力だけではなく、場をなごませたり、聞き上手だったり、いろいろな個性があります。一人ひとりの個性を認めて、その良さを言葉にして伝えるのです。
「Good&More」という言葉がありますが、まず、「ここがいい」という「Good」をしっかり伝えたうえで、次に「この点を改善するともっとよくなるよ」と、「More」を加える。「More」だけだと凹んでしまいますが、最初に「Good」があるとポジティブに響くので、言われた側は励まされます。先ほどの、3つの「経験から学ぶ力」でいえば、「Good」が「エンジョイメント」、「More」が「ストレッチ」に相当します。









