部下のCan(できること)に注目していく
マネジャーが強みを引き出し、適切に支援しても、仕事への意欲をなかなか上げない部下もいるだろう。そうした場合は、部下の「できること」に注目するのがポイントだと松尾教授は説く。
松尾 良いキャリアを築くうえでは、「Will=こうなりたい」「Must=やらなくてはいけない」「Can=これができる」という3つのバランスをとることが大切だと言われています。とはいえ、新入社員に「Will」を聞いても、明確な答えは出てこないかもしれません。でも、自分ができることである「Can」は実感できるし、できるようになったら嬉しいですよね。育て上手のマネジャーは、部下の「Can」を膨らませる指導をしています。その人の強みを活かしながら、小さな成功体験を積ませていくと、学習意欲が出てきます。そして、進捗を確認し、フォローしながら、成長とともに徐々に支援を少なくし、自分の力でやりきらせるようにします。これが、マネジャーの目指すべき、エンパワリング型の育成方法です。
また、仕事を始めたばかりの新入社員は、「この先、自分はどうなるのだろう?」と、漠然とした不安を抱きやすいです。勝手な憶測から離職に至ってしまうケースもあります。そうならないためには、3年後、5年後、10年後など、少し先の仕事のイメージを持たせてあげるとよいでしょう。現在の仕事が将来のキャリアにどうつながるのか――仕事の意味づけがわかると、頑張ろうという気持ちがわいてきます。
マネジャーは、部下に経験を積ませながら、次世代のリーダー、マネジャー候補を育成する意識を持つことも重要です。マネジャーの仕事の一部を手伝わせる、中堅くらいになったら小さなプロジェクトを任せるなど、ステップを踏んでマネジメント力をトレーニングする場を設け、素質を見極めていくようにするのです。3年目から5年目の社員を新入社員のメンターにつかせているのであれば、「新入社員が経験から学べるように指導することの大切さ」を教えて、「あなたはマネジメント力の一部を鍛えているんですよ」と意味づけてあげましょう。マネジャーの素質がある人材を目に見えるかたちで把握し、本人にも、「あなたはマネジメント力があるよ」とフィードバックしてあげることがポイントです。
新入社員の育成では、職場の上司や先輩、マネジャーだけではなく、人事担当者の姿勢も重要だ。どのような心構えで、新入社員に向き合えばよいのだろう?
松尾 人の成長は経験学習力で決まります。ですから、新入社員には、経験学習の重要性を理解したうえで、「経験」する→「内省」する→「教訓」を引き出す→「応用」する、というサイクルを回す習慣を身につけてもらうことが効果的です。これに加えて、その人が持っている強みを伸ばしながら、経験から学ぶことがポイントになります。人事担当者は、新人研修やOJTにおいて、新入社員一人ひとりが持っている「強み」や「できること」を意識させ、経験学習サイクルを回すための支援をすべきかと思います。例えば、新人研修において経験学習の大切さを教え、経験学習サイクルの回し方を教えることが考えられます。また、職場のOJTトレーナーには、新人が自分の力で経験学習サイクルを回す支援をしてもらうといいでしょう。そのためのマニュアルを作成して、トレーナーを対象とした研修を実施することが有効です。その際、日々の仕事の中で、失敗だけでなく、成功にも着目して、Good(良かったこと)&More(もっとできそうなこと)方式で振り返ることをおすすめします。この時点からマネジメント力向上の訓練が始まっているといえます。人事担当者は、社会人としてのスタートの段階で、経験から学ぶためのスキルを教え、さらに、職場においてもそれを継続できるしくみを構築してほしいと思います。











