AI投資がもたらす
需要の加速

 AIが経済に与える影響を考えるうえでは、供給面と需要面を分けてみることが重要である。供給面では、生産性向上や省人化によるコスト削減が期待される。一方、需要面では、AIの開発・運用に必要な設備投資が急増し、経済全体の需要を押し上げる。

 現時点の米国で目立っているのは、後者、すなわち需要面のインパクトである。生成AIや大規模言語モデルの開発・運用には、大量のGPU(画像処理半導体)、メモリ、サーバー、通信設備、データセンター、そして安定した電力供給が必要となる。そのため、AI関連投資は半導体、電子部品、建設、電力インフラなど幅広い分野に波及している。

 高金利環境にもかかわらず、巨大テック企業はAI関連投資を積極化させている。潤沢なキャッシュフローを持つ企業群にとっては、金利の高さが直ちに投資抑制要因になりにくい。現状は、こうしたAI関連投資が米国の成長を押し上げている側面がある。

 重要なのは、この局面ではまだ「AIによる供給力改善」よりも、「AIを実装するための投資需要」の方が前面に出やすいという点である。つまり、AIは短期的にはインフレを抑制する要因というより、むしろ需要を押し上げるインフレ要因として作用しやすい。

メモリ高騰からPC値上げへ
忍び寄るAIインフレ

 米国のインフレ指標の細部をみても、AI投資の余波はすでに明確な数字となって表れている。企業間の取引価格を測る生産者物価指数(PPI)では、ストレージや電子部品の価格上昇が加速。消費者物価指数(CPI)への波及も早く、USBメモリやSDカードといった「コンピュータソフトウェアおよび付属品」の価格はすでに急騰している(図表)。2026年6月にアップルがMacやiPadなどの一斉値上げに踏み切ったように、今後はPCやスマートフォンなどの身近な製品価格まで押し上げられる公算が大きい。

 ここで注意すべきは、1990年代半ばから2000年頃のIT革命時との決定的な違いである。当時は、IT化の進展が需要を押し上げる一方で、中国の台頭による供給力拡大が世界のモノの価格を押し下げる「供給ショック」が起きており、ITハードウェアの価格は下落し続けていた。

 しかし現在は、当時とは環境が異なる。米中対立の長期化や半導体をめぐる輸出規制、追加関税措置、サプライチェーンの再編などにより、供給面には常に不確実性がつきまとう。さらに、データセンター増設に伴う電力需要の拡大は、エネルギーコストや電力料金への波及も意識させる。