問題社員一人を助けようとして、周囲の優秀な5人を失ってしまっては意味がない。冷たい対応に見えても、それは疲弊している上司や同僚を守るための現実的な判断なのです。

 静かな解雇は多くの場合、配置や役割を変える形をとります。

 たとえば、ミスが大きな損害につながる顧客対応のような業務からは外し、日常オペレーションの中核からも外し、成果が上がらなくても周囲への悪影響が小さい仕事へ移す。昔の言葉で言えば、「窓際」の部署に左遷するのに近い対応です。

 あくまで、チームの負担が減るように、役割を極端に限定したり、配置を見直したりするのです。

 というのも、懲戒処分や退職勧奨を正面から行えば、本人が事実と異なるハラスメントを主張したり、会社に不利益な情報を口コミサイトに書き込んだりして、トラブルが大きくなるリスクがあるからです。

「静かな解雇」をする企業が
必ずやるべきこと

 しかし、そうであっても、企業がいきなり社員を見切るのは危険です。静かな解雇に入る前に、必ず踏むべき手順があります。

 まず面談を行い、何を期待しているのかを明確に伝えます。そのうえで、どの点が足りていないのかをフィードバックし、改善の目標を示して、実際に改善する機会を与える。必要に応じて研修やキャリア形成の支援も提供し、その後の状況を定期的に確認していきます。そして何より大切なのが、これらを記録として残すことです。

 もし争いになったときに、こちらも合理的な判断としてやむを得ずこうしたのだ、と示せなければなりません。

 面談の日時、伝えたフィードバックの内容、それに対する本人の反応、示した改善目標、会社が提供した支援、その後の変化、そして評価判断の根拠。こうした記録がそろって初めて、会社としても最善の努力をした、と説明できます。

 感情で遠心力をかけたのではなく、手順を踏んだうえで判断し、かつ証拠を残すことが重要です。

 かつては説明もなく仕事を外し、放置し、居場所を奪うようなことも珍しくありませんでした。ただしもう昔のような雑な対応は許されません。

 今は、コンプライアンスやハラスメント、心理的安全性、労務リスクといった観点から、企業側に求められる説明責任は、昔とは比べものにならないほど重くなっているのです。

 静かな解雇は、解雇規制の厳しい日本企業が、優秀な社員を守り組織を維持するために、かつてのやり方からアップデートさせた現代的なマネジメント手法なのです。

【著者の人気記事を読む】え、そんなことで?人事が秒で「不採用」にした履歴書に共通する“どうでもいいミス”