これからのキーワードは「誰とも競争しない」

 わたしがやったこと、それはただ「誰とも競争しなかった」なのです。

 大勢の人が注目する分野には目もくれず、誰ひとり見向きもしないような場所で、伸び伸びと研究してきた。あえてカッコつけた言い方をするなら、新しい「モノ」をつくるのではなく、新しい「ジャンル」をつくってきた。
 そんな自負を持っています。

 おそらく、人もモノもサービスもすべてが飽和状態を迎えた日本において、これからのみなさんに求められるのは、この「新しいジャンルをつくる」という発想だと思います。

 むずかしい話をするつもりはありません。まずは、なぜ「ジャンル」をつくるのか、そして「ジャンル」をつくるとはどういうことか、簡単にお話ししていきましょう。

子どもにとっての「野球と探偵団ごっこ」

1953年(昭和28年)生まれのわれわれ世代にとって、王貞治さんと長嶋茂雄さんは国民的なヒーローでした。いわゆるON世代の人間です。放課後の子どもたちは、近所の空き地に集まっては野球に明け暮れていました。

 ところが、自分の子ども時代をどれだけ遡ってみても、野球で遊んだ記憶がありません。運動や外遊びが苦手だったわけでもなく、友達がいなかったわけでもなく、毎日外で遊んでいたにもかかわらず、です。代わりに熱中していたのは、雑木林に秘密基地をつくって遊ぶ、探偵団ごっこでした。

 私は、どうして野球をしなかったのでしょうか?