【検証1】
価格戦略を採用しなかったのは正しい?

 まず最初に検証しておきたいのが「なぜ価格破壊という選択肢をとらないのか?」という点です。

 BYDのコスト構造を前提にすれば日本市場に150万円程度の低価格で参入することで圧倒的な数量を狙うという選択肢が論理的にはあり得たはずです。

 しかしBYDはその選択肢を採らなかった。ここが最初のポイントです。理由はいくつかの事情に分かれます。

 一番目の事情が日本政府の警戒です。

 安い中国車はすでに欧州市場で10%を超えるシェアを獲得するようになっています。日本もそうなってしまうことを警戒する政府はBYDに対して理不尽に低いレベルの補助金を決定しています。

 国の補助金は小型車EVには最大130万円、軽EVでも最大58万円の補助金が支給されます。例えば、トヨタの「bZ4X」は130万円の補助金が出ますが、BYDの乗用車に対しては国の審査で補助金は15万円です。軽EVラッコへの補助金はこれから発表されるでしょうけれども、おそらく0~15万円のどれかに決まるでしょう。

 そのためラッコは競合するサクラやN-ONE e:に対して40万円以上の価格でのハンディキャップを背負うことが予想されます。その前提で価格破壊戦略をとるのは消耗戦になります。これが一番目の事情です。

 二番目に消費者がどう受け止めるかです。

 サクラの売れ筋グレードであるXに対する国の補助金適用後の価格は約202万円、N-ONE e:の売れ筋のグレードLの補助金後価格が約262万円です。

 先述したようにBYDはコスト競争力がありますから、その気になればこの価格を下回ることは可能です。航続距離200kmの下位グレードを150万円に、300kmの上位グレードを220万円に設定するような戦略はとれるのです。

 ただその前提だとコストを相応に削る設計になります。これをやると消費者には安物の車として目に映るでしょう。

 これがテレビやパソコンの場合なら安物でもいいという消費者は出てきますが、車の場合は違います。自分の命を預ける商品ですから、安物のイメージは大幅なマイナスにつながります。

 つまりBYDが軽市場に参入するにあたっては、品質、中でも安全品質で日本車を大きく上回るほうが勝ち筋になります。そしてそれを選択するとどうしてもコストは増加する。だから低価格戦略は選ばなかった。これがふたつめです。