三番目にチャネルの問題があります。今のBYDのディーラーは基本的に都市部に配置されています。これまでの売れ筋が都市部で売れるハイエンドの乗用車だったからです。

 しかし軽は一番売れる市場は地方都市です。それを考えると中期的にはBYDは日本の地方都市にチャネルを拡大していく必要があります。新しい流通パートナーが必要になるのです。

 その際に「そこそこ利幅がとれそうだ」と思わなければ新しいパートナーは手を上げません。この点で、軽EVについても薄利多売ではなく利幅を意識する必要があります。

 これらの前提を総合すれば、BYDが軽EV参入で価格破壊戦略を採択しないことは極めて妥当な判断だといえるでしょう。

【検証2】
価値戦略は消費者に伝わるのか?

 さて、BYDの軽EV「ラッコ」の価格は今から約10日後の7月28日に発表されます。私の予測だと下位グレードの「200」が240~260万円程度、中位グレードの「300 Plus」が270~280万円程度、最上位グレードの「300 Premium」が300万円台前半に設定されるのではないかと考えます。

 大きく外れたらごめんなさい。この前提で競合商品と比較をしてみましょう。

 航続距離200kmのラッコ200の競合になるのは日産のサクラです。このサクラは売れ筋は先述したように補助金適用後202万円のグレードXですが、その上のグレードGも補助金後約242万円ながら結構売れています。

 サクラのグレードGが選ばれる理由は高度運転システムのプロパイロットが標準装備されている点です。

 ここにラッコ200を240~260万円でぶつけるということは、サクラのXとの競合は最初から考えず、Gを選ぶ消費者に対する選択肢として名乗りをあげる戦略ということになります。

 ではラッコは価値の軸においてどのような価値戦略を選択しているのでしょうか?全車標準装備を見るとラッコの戦略が見えてきます。

 まず安全装備としてはエアバッグ、高強度ボディ、衝突軽減タイプの4輪ディスクブレーキに加えて高度運転支援システムを標準装備します。V2Lの車外給電にも対応。ソフトウェアはOTA、つまり自動的にアップデートされます。

 さらにサクラにない標準装備が両側電動スライドドアです。

 実はこの電動スライドドアはラッコの開発主体となった元日産のエンジニアが日産時代にどうしても採用したかったこだわりの付加価値でした。コストにあわないという理由で日産時代に却下されたものを、リベンジの形でラッコに標準装備させてきたものです。

 ざっくりまとめるとラッコ200についてはサクラの最上位車種よりも顧客価値がかなり大きい。そのうえで価格は比較可能なレベルだという線で、消費者はどちらがいいかを選択することになります。

 次にホンダのN-ONE e:の対応車種を見てみましょう。

 航続距離300kmのモデルが比較対象になるのですが、ラッコ300 Plusにはシートヒーターに加えて幼児置き去り検知機能が加わります。さらに最上位のラッコ300 Premiumはそれらに加えて合成皮革シート、アラウンドビューモニターが装備され、さらに電動スライドドアは足をかざすだけでハンズフリーで開閉できるようになります。

 これらの上乗せ機能は、日産サクラの最上位グレードと比較して60~70万円分に相当するという試算もあります。この価値を比較検討する消費者がどう捉えるかで、価値戦略の成否が決まってくるでしょう。