小が大を飲む買収
その意外なキーマン

 船頭なきまま漂流していた船井電機に転機が訪れたのは、2019年9月。

 上田智一氏が率いる中堅出版社、秀和システムによる買収話が浮上したのだ。

 上田氏と船井電機との接点はいつ、どのように生まれたのだろうか。買収時に秀和システム側が公表している「公開買付届出書」や、関係者の話によると以下の通りだ。

 創業者の船井哲良氏が死去した2カ月後の2017年9月下旬ごろ、遺族は、船井電機を再成長させる必要があると考えていた。だが、遠方で働く自らが乗り出すことはしなかったようだ。

 そこで遺族は2018年8月下旬から、船井電機の子会社で、船井家の資産管理会社である船井興産の専務取締役を務めていた人物を介して、事業を再成長させられるパートナーを探した。

 だが、複数の投資ファンドと接触するも、信頼関係を醸成することができなかったという。

 そんな中で名前が挙がったのが、船井電機の顧問を務めていたB氏だった。

 B氏は赤字企業だったNTTぷららを立て直した実績を持つ経営者。当時、京都を拠点とするコンサルティング会社で、秀和システムの子会社であるK社でも顧問を務めていた。

 そのK社と、秀和システムの社長を務めていたのが上田氏だった。

 B氏と上田氏は共に、具体的な船井電機の企業価値向上策を立案。2019年11月下旬には、創業者遺族にその内容を提示し、買収についての同意を得たという。

 そして2020年から2021年にかけて、秀和システムによる船井電機買収の準備を進め、2021年3月24日の株式公開買い付け(TOB)開始へと至った。

 TOBとは、株主に対して買付価格や買付期間を公示して株券を売るよう促し、市場外で株券を買い付けることをいう。

 当時、秀和システムは資本金9500万円、従業員数70名。

 一方の船井電機は資本金313億700万円、総資産700億円超、連結の従業員数は2100人を超える大企業だ。

 それはまさしく、小が大を飲む買収だった。

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)を抜粋・編集した記事です)

片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。

Key Visual by Kaoru Kurata, Manami Kanemura