それらを合算し、勝利に換算したWARは「9.4」。つまり、大谷選手ひとりで、補欠レベルの選手より約9勝分多くの勝利をドジャースにもたらした、ということです。

 ここで思考実験をしてみましょう。もし大谷選手が全休し、その穴を補欠レベルの選手が埋めていたら――約9勝分が負けへと変わっていた計算になります。

 2025年のナ・リーグ西地区の優勝争いを考えれば、この9勝がなければ、ドジャースは地区優勝を逃していたことになるのです。

「大谷選手がいなければ優勝できなかった」。ファンの実感としては当たり前に聞こえるこの言葉が、WARを使えば、感覚ではなく計算で示せる。これがこの指標の威力です。

イチローに迫る、日本人歴代WARランキング

 WARのもうひとつの面白さは、リーグ内の相対評価であるため、時代をまたいで選手同士を比較できることです。これまでMLBに挑んできた日本人選手の通算WARを見てみましょう。

 トップはイチロー氏の57.5。そして投打でWARを稼いできた大谷選手が49.7でこれに迫っています。

 さらにダルビッシュ有投手、野茂英雄氏と続きますが、大谷選手が投手として稼いだWARを超えているのは、その2人と黒田博樹氏、田中将大投手、前田健太投手のみ。

 大谷選手の投手としての登板機会はそこまで多くないにもかかわらず、その質の高さでWARを積み上げてきたことがわかります。

 全体を見渡すと、それぞれの選手が残した「存在感」とWARがリンクしていることに気づくはずです。細く長く活躍した選手も、太く短く活躍した選手も、しっかり評価されるのがWARなのです。

 まだ32歳の大谷選手がイチロー氏を抜くのは間違いなさそうで、いったいどこまで数字を伸ばすのかが焦点になります。

 投打の二刀流で稼げる間にどれだけ積み上げられるか――。今後の大谷選手を追いかけるとき、WARという「勝利の物差し」を片手に観戦すれば、その一打、その一球の意味が、これまでの何倍も立体的に見えてくるはずです。