報道の中心は、「政府側の発言を受けて、『今後、GPIFが国内債券を増やすのではないか』という観測が市場に広がり、それを先取りして国債が買われ、金利が低下した」というものだった。
市場ではGPIFが外国債券などから国内資産へ資金を移し、国内国債を増やす可能性が意識されたようだが、多くの報道は、政府がGPIFの基本ポートフォリオを直ちに変更すると決めたわけではないことも併記している。
GPIFは、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式をそれぞれ25%とする基本ポートフォリオを採用している。政府関係者は、現時点でこの基本割合の変更を想定していないと説明している。
市場の価格シグナルを消してしまう危険
財政への信認回復が根本策
長期金利の上昇には、財政運営に対する市場の警戒が反映されている可能性がある。
その際、仮に政府が年金資金を利用して国債価格を支え、金利を意図的に押し下げようとすれば、市場が発している警告を見えにくくすることになる。
そして政府の財政運営への不安から金利が上昇しているにもかかわらず、政府の意向を受けて年金資金が国債を買い支えるのであれば、年金加入者の利益よりも政策目的を優先しているのではないかという問題が生じる。
GPIFの資金は政府が自由に使える財源ではない。将来の年金給付を支えるため、被保険者の利益を目的として、安全かつ効率的に運用されるべき資金だ。
したがって、国債市場の安定や政府の資金調達を目的として利用することには、慎重でなければならない。
金利や為替、株価、物価は、経済の状態を知らせる重要な信号だ。
金利上昇の原因が財政不安にあるなら、必要なのは、年金資金による国債購入の増額ではない。歳出の内容と財源を明確にし、財政に対する信頼を回復することが根本的な対応策だ。
金利の上昇は、国債を購入する投資家が将来のインフレや財政悪化のリスクに対して、より高い利回りを要求していることを意味する。その警告を公的資金による購入で一時的に抑えても、財政上の問題そのものが解消されるわけではない。
政府がやるべきは、金利、為替、物価などが発する信号を正確に読み取り、財政政策や金融政策、産業政策の問題を修正することだ。
市場との対話を失った経済運営は、短期的には安定しているように見えても、長期的には、より大きな不安定を招く危険がある。
7月14日の債券相場の急反転で、国債への不安が完全に解消したと考えるべきではない。積極的な入札やGPIFをめぐる観測によって金利が低下したとしても、財政運営に対する市場の評価が根本的に変わったとは限らないことを高市政権は銘記すべきだ。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)







