役員を何人も雇い、形だけ部門を割り
できない幹部も同じ椅子に座り続ける…
労働時間と並んで、スタートアップ経営者を悩ませるのが、幹部の役割をめぐる線引きです。上場審査では職務分掌、ひとりに権限を集中させず、互いに牽制が働く組織であることが強く求められます。承認する人と実行する人を分ける。営業を統括する役員が経理まで見てはいけない。
これは考え方としては正しいです。が、これも法律が直接命じていることではありません。会社法は取締役会や監査役といった大枠は定めていますが、誰がどの部門を兼ねてよいか、そこまで細かくは縛っていないのです。ここでも上場審査の慣習が、独自に高いハードルを立てます。
そして小さな会社ほど、この線引きは重くのしかかります。社員が数十人の段階では、ひとりの有能な幹部が複数の部門を束ねているからこそ、速く動けます。それを審査のために無理やり分ければ、本来まだ要らないはずの役員を何人も雇い、形だけ部門を割ることになります。攻めるための身軽さを、上場の体裁と引き換えに手放してしまうのです。
ここまでは上場するまでの話です。本当に怖いのは、上場した後かもしれません。
審査を通すために職務分掌を整え、形のうえで部門を割り、役員の数をそろえる。そうして体裁を繕った組織には、本来その椅子に座る力が足りない幹部も、まぎれ込んでいることがあります。
上場をゴールにしてしまうと、上場した途端に、「目指していた頂上に着いた、もう登る理由がない」――。そんな空気が、組織の隅々に広がっていきます。
大きな会社であれば、ここで自然な淘汰が働きます。同期が何十人もいて、同じポストを奪い合うので、実力の足りない人は自然と脇に押し出されていきます。
ところが規模の小さな会社には、同期の競争なんてありません。できない幹部も、できる幹部も、同じ椅子に座り続けてしまう。ジョブローテーションも規模が小さいと回しようがありません。
新規採用ができなければ、新しい風も入らず、視点も変わらない。こうして組織は静かに沈滞していきます。攻め続けなければ伸びないはずのスタートアップが、上場という看板を手にした瞬間に緩んでしまう。







