「デザインは万能ではない」を理解する――Takram代表・田川欣哉氏と考えるブランドにデザインを効かせる方法「DESIGN 3.0 〜ビジネスパーソンはなぜデザインが苦手なのか」より 写真提供:文藝春秋

「デザイン思考」「デザイン経営」という言葉は、ビジネスの語彙としてかなり浸透したかに見える。しかし、デザインが「何に効くのか」についての共通認識はいまだなく、経営とデザインの間には埋まらない溝がある──。そう話すのは、2026年にグッドデザイン賞審査委員長に就任した中川淳氏(中川政七商店元会長)だ。本連載では、文藝春秋PLUSで展開中の動画コンテンツ「DESIGN 3.0」と連携し、中川氏が有識者との対話を通じて、デザインを経営に活用するための方法論を探っていく。第1回では田川欣哉氏(Takram代表/デザインエンジニア)との対話を起点に「デザインはそもそも何に効くのか?」を考える。

田川欣哉氏との対談本編は「文藝春秋PLUS」の動画でご覧いただけます。

「デザインが分からない」の深層

 どんなビジネスにもクリエイティビティは必要です。そして、クリエイティビティを発揮するためには、経営者にもデザインのリテラシーが求められます。しかし、デザインをどこか遠い存在のように感じている経営者は、いまだ多いのではないでしょうか。実際、こんな言葉もよく聞かれます。

「自分にはセンスがないから、デザインなんてわからないよ」

 おそらく謙遜もあるのでしょう。しかし、その裏に「デザインのようなふわふわしたよく分からないものに投資するぐらいなら、広告やマーケティング施策を一つでも打った方がいい」という本音も透けて見えるのです。デザインに対するうっすらとした苦手意識──もっというと、忌避感や不信感──は、どこから生まれているのでしょうか。

 私に言わせれば「デザインの良し悪しは特殊なセンスがないと判断できない」とか、「デザイナーにはビジネスの言葉が通じない」というのは、思い込みであり誤解です。デザインは、財務や人事、マーケティングなどと同様に経営ツールの一つですし、専門性に基づいたメソッドもロジックもある。当然ながら、ビジネスの目的達成に役立ちます。

 ただし、こうした誤解を単なる経営者側の無理解に帰すつもりはありません。デザイン側の振る舞いにも問題があるからです。

 この十数年、「デザイン思考」や「デザイン経営」という言葉の広がりとともに、デザインはあらゆる経営課題を解決できるかのような期待を背負い、ともすればデザイナー側からも「万能感」をまとった言説が語られてきました。しかし実際には、デザインは万能ではありません。であれば、今優先すべきは「デザインは何に効くのか」を整理することです。その上で、私が声を大にして言いたいのは、デザインは利益を生み出すための一つの手段である、ということです。