クレヨンの匂いで世代を超えた囲い込みに成功
クレイオラ社は、アメリカに古くあるニューヨーク発祥のクレヨンのブランドだ。アメリカでは90%以上の認知があり、コカ・コーラ並みの老舗ブランドである。
そして、アメリカ人の多くがこのブランドの商品を見ることなく、触ることなく、もちろんブランド名を聞くことなく、このブランドの存在を言い当てることができてしまう。
クレイオラ社の製品には独特の脂臭がある。
アメリカ人の多くは、小さい頃にこの匂いをかいでいることから、大人になってもこの匂いをかぐと血圧が下がり、鬱が改善するとの報告もある。子どもの頃の記憶がよみがえり、親や先生に守られて安心していた感覚がよみがえるのだろうか。子どもにクレヨンを買い与えるとき、親はどうしてもあの匂いがしないブランドを選ぶ気がなくなってしまう。
こうして、何世代にもわたって、同じブランドが愛され、信奉され続けるメカニズムが構築されているのである。そして実際に、クレイオラ社は、中国の模倣品が増えたときに、この独特の匂いに商標を取り、コピーの防衛を行ったという。
多くの宗教では、香をたいたり鐘をならしたり、目に見えない神の存在を、五感を通じた「気配」で感じさせるような仕組みがある。
これはブランドも同じだ。時空を超えて、クレイオラの匂いが顧客にブランドの気配を感じさせてしまうのである。
香りや五感に限らず、ブランドとの絆を脳に確信させる仕組みとして宗教を見ると、既存のマーケティングの方法論に抗うような斬新な視点がたくさん見えてくる。しかし、だからといって、宗教とマーケティング、マーケティングと脳科学、脳科学と宗教の3つが、いつか渾然一体となって解け合うことを願っても不毛である。
ドレッシングは決して完全には混ざらない。食べる直前に混ぜるからこそおいしいのである。
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