各企業は、他社を追い越し、追い抜くために、マーケティングリサーチに勤しんでいる。にもかかわらず、店頭には似たような商品ばかりが並び、消費者は違いがあることすら気づいていないこともあるだろう。
いま、脳科学とマーケティングが融合した「ニューロマーケティング」が注目を浴びている。アンケートやグループ・インタビューからは読み取れない、言葉にできない消費者の“ホンネ”とは。「なんとなく」の正体に脳科学で迫る。

脳科学・宗教・マーケティングの三角関係

 イギリスのある番組が、熱心なクリスチャンが神の存在を思い描くときの脳の反応と、アップル社の熱狂的なファンがアップル社を思い浮かべるときの脳反応は酷似しているという特集を報道した。

 イギリス・ウォーリック大学のジェンマ・カルバート博士は、fMRIの脳イメージング技術を使ったこの実験で、両者に「側坐核」という部位で共通した反応が見られることを突き止めたという。

 ブランドの仕事を長くしていると、宗教や信仰というテーマにたどり着くことがある。銀座のアップルストア前のスティーブ・ジョブスの遺影に向かって、むせび泣くファンの女性を見れば、決して経験豊かなマーケターでなくても、これが何か信仰めいたものと関係あるのではないかと考えてもおかしくはない。

 同じように、マーケティングを突き詰めるうちに脳科学にたどり着くというのもまた、それほどめずらしい話ではないだろう。広告会社には心理学のプロが多いし、心理学は昔から脳科学とバックドアでは繋がっている。言葉にならない非言語的なものが、人間の五感、ひいてはその中枢である脳に影響しているはずだ、と考えるのが自然である。

 そして、宗教と脳科学との関係もまた、昨今研究され始めたホットなテーマである。ダライ・ラマと脳科学者との対話が書籍になるなど、脳科学も宗教も、究極のところ人間の精神を扱うことから、宗教家が脳科学の発見や知見を咀嚼したり、宗教家の思案の歴史に脳科学の解を求めるといったことが起こるのだろう。

 しかし、この3つ―脳科学、マーケティング、宗教―を並べてみると、いかに相互の相性が良くないかということも同時にわかる。

 脳科学とマーケティングとの組み合わせは、脳を操る洗脳広告や、商売のためのエセ脳科学の効能書きを思わせる。マーケティング(商売)と宗教は、ねずみ講のような勧誘ビジネスや壷を売りつける新興宗教を思わせる。そして、宗教と科学、この2つの血で血を洗う歴史的確執は言うまでもないだろう。

 つまり、脳科学がマーケティングと接近するということは、本来最も相性の良くなかったこれら3つの世界をまぜこぜにするということだ。しかし、あええてこの3つを、分離したドレッシングを振る要領で(決して完全に混ざることがないと知りつつ)混ぜてみると、そこに一瞬だが、絶妙な味わいが生まれる。