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「ママ、何を怒ってるの?」
そのひとことにBさんはハッとしたという。日本と同じように直してもらえず、期待が裏切られたことにイラついている。そして子どもには何ひとつ挑戦させず、不便と危険から守っているだけ。
「自分は何をしに、高いお金を払ってこの国まで来たのだろう?」
反省したBさんはその晩、息子と2人で決めごとをした。
まず、「今日のびっくり大賞」を発表すること。1日の終わりに「日本と違ったこと」を言い合って笑う。生活上の文句があった場合は、この賞レースの形でしか言わない。
続いて「1日1挑戦」。母も息子も毎日ひとつだけ、英語で新しいことに挑戦する。
「ママも英語できないよ。でも、見ているだけの人はもうやめる」
翌日、Bさんはタクシーの運転手に話しかけてみた。半分も聞き取れず、笑ってやり過ごした。その晩、正直に息子に報告した。「ママ、今日は全滅。あの運転手さん、おすすめのお店を教えてくれたみたいだけど、分からなかった」
R君は笑っていた。数日後、びっくり大賞には、R君のほうが真剣になっていた。
「今日の大賞はスーパーのレジだよ。お姉さんがにこにこ話しかけてくれて、袋に入れてくれた。でもすごく時間がかかって、僕の後ろにお客さんがどんどん並んでく。でもね、誰も怒ってなかった。日本だったら絶対、誰かが怒りだすよね」
R君は続けた。「どっちがいいのかな――」
水あかで目詰まりして全開でもちょろちょろになったホテルのシャワーヘッドについて、R君は先生に自ら相談し、英文を考えて覚え、スタッフを呼び、直してもらった。
「ちゃんと伝えれば直してくれるんだよ」
Bさんの「挑戦する姿勢」が、R君を変えた。Aさんの「うわ、臭い!」が娘2人に悪影響を及ぼしたのとは、雲泥の差だ。
2組を分けたものは、もちろん英語力ではない。親の、異文化への向き合い方だ。
帰国したBさんは、こう振り返る。
「日本に帰ってきてから、息子が店員さんに物怖じすることなく話しかけるようになっていて、びっくりしました。人にも聞くことで問題を解決する度胸がついたみたいで、 たくましくなりました」
R君は、習い事の英会話教室も、以前よりずっと積極的になったという。そして、「これ、英語で何て言うの?」と、日常的に聞いてくるようになったそうだ。







