この時代から昭和全般のころまで、政治家や実業家のもとには、休日ともなればひっきりなしに客が訪れることが慣例として定着していた。当時は、相手が不在で無駄足になったとしても、空ぶりは空ぶりでそれを受け入れるものというのが常識だったのだろう。
それが電話が登場すると、事前に在宅を確認できるようになる。相手にこれから伺ってもよいかと一報を入れる、いわゆる予約の習慣が定着したのだ。これにより、約束なしの突然の訪問は、相手の都合を無視した失礼な行為とされるようになった。
突然の着信に不安を感じて
電話対応を退職理由にする若者も
同じような変化が現代にも起きている。今度は突然電話をかけることが、失礼な行為とみなされ始めているのだ。メールやメッセンジャーであれば、受け手が好きなタイミングで読み、返信できる。つまり、非同期型のメディアである。これに対して電話は、相手の行動を中断させ、リアルタイムの対応を強いる。かつて電話がアポイントなしの訪問を無礼なものに変えたように、テキストツールの普及が事前予告のない電話を相手の時間を奪う行為へと変えているのだ。
また、突然の電話は単に非礼なだけでなく、恐怖の対象にすらなっている。
『機械ぎらい』(速水健朗、集英社)
産業カウンセラーで『電話恐怖症』(朝日新書、2024年)の著者・大野萌子によれば、2015年以降、新入社員の退職理由に電話対応が挙げられるケースが増えているという。
ある調査では、ミレニアル世代の76%が着信音に不安を感じると答えている。
突然始まる会話への緊張や、他者からの評価を過度に気にする心理。送信前にじっくり文面を考えられるテキストのやりとりとは異なり、電話は修正がきかない。その場で即答を求められるプレッシャーは、メール以上に重いものとして認識されている。
こうした苦手意識は若者に限った話ではなく、程度の差こそあれ現代人全般に共通している。アポイントなしの訪問が失礼になったのと同じように、事前の通知なく相手の時間を奪う電話そのものが、もはやマナー違反になりつつあるのだ。







