医療費の請求事務は健康保険組合ごとに行われており、新しい加入先では過去の医療費の支払い状況を把握することができないからだが、継続的に治療を受けている患者にとっては、健保組合の異動によって負担が増えるのは理不尽だ。

 そこで期待されるのがマイナ保険証だ。マイナ保険証に蓄積された過去の診療情報を活用すれば、健康保険組合を異動しても過去の医療費支払い状況が確認できて多数回該当も引き継げるはずだ。せっかく莫大な予算をかけてマイナ保険証を導入したのだから、そのデータを患者負担の軽減にも有効活用してほしい。

 資格確認書での受診についても、高額療養費の自己負担限度額を証明する「限度額適用認定証」をつくる際に、医療費の領収書や診療明細書で過去の医療費の支払い額を確認すれば、多数回該当の引き継ぎは可能になるのではないだろうか。

(2)低所得層の自己負担限度額がWHOの破滅的医療支出を超えている

 15年1月の高額療養費の改正では、年収約200万~約370万円の人は自己負担限度額が引き下げられ、低所得層の負担は軽減された。

 一方、26年度の改正では、国は応能負担を強化するといいつつ、住民税非課税を含む全ての所得区分で限度額の引き上げを行った。だが、低所得層は改正前から破滅的医療支出になっていたと分析されている。

 破滅的医療支出という言葉は、25年11月に開催された厚生労働省社会保障審議会医療保険部会の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」に、患者団体が提出した資料によって注目を浴びるようになった。

 世界保健機関(WHO)では、その患者の医療費の支払い能力の40%以上を自己負担額が占める状態を「破滅的医療支出」と定義している。医療費の支払い能力は、収入から税金や社会保険料、基本生活費(住居費、食費、水道光熱費など)を差し引いて残った金額だ。低所得層ほど収入に対する基本生活費の割合が大きくなるため、医療費の支払い能力は低くなる。

 前出の資料を基に、この医療費の支払い能力と、高額療養費が適用された1年間の医療費の自己負担限度額を比較したのが次の表だ(26年7月までの自己負担限度額での試算)。