5人乗りにしなかった理由

F:後席を薄くすればフルフラットにすることもできた。でも、せっかくドアを増やして後席の乗降性を良くしたのだから、そこでシートを薄くする手は選ばなかった。それでは5人乗りについてはどうでしょう。軽自動車の枠から外れたのだから、5人乗りにするという考えもあったのではありませんか?

佐:確かに5人乗りにして欲しかったという声もあると思います。ただ、ノマドの車内幅は軽自動車のジムニーと同じです。仮に5人乗りにしても、とても快適に乗れる幅ではありません。車内幅を広げると、クルマはどんどん大きく重くなって、まったく別のクルマになってしまう。

ノマドの後部座席ノマドの後部座席は2人用 Photo by A.T.

 ターボは付けない。最小回転半径は大きくなる。荷室は完全なフルフラットにならない。5人乗りにもしない。こう書いて並べると、「できないことだらけのクルマ」ではないか。

 だがそれぞれに明確な理由がある。最小回転半径の拡大は、5ドア化に伴う物理的な代償である。ターボで力を増せば、トランスミッションを含めてクルマ全体のバランスを取り直す必要が生じ、結果として更に重くなる。荷室がフルフラットにならないのは、後席の快適性を優先したからだ。狭くてぎゅうぎゅうの5人乗りは必要ない。

 ノマドは何もかも盛り込んだ“ジムニーの上級版”ではない。4人がキチンと乗り降りでき、快適に座れ、荷物もしっかり積める。その目的に必要なもの“だけ”を積み重ねていったのだ。

「贅肉を付けていないクルマ」という設計思想

「基本的には、贅肉を付けていないクルマ」

 佐々木さんのこの言葉が、ノマドというクルマを最も端的に言い表している。

 この“贅肉を付けない”という思想は、メカニズムや装備だけにとどまらない。ノマドはシエラよりホイールベースが340mmも長い。後席ドアを2枚増やし、フロントドアもリアドアも、ボディ側面も新しく造り直している。それほどの大手術を施したにもかかわらず、完成したノマドを見て「シエラを無理やり引き伸ばした」と感じる人は少ないだろう。どこからどう見ても「ジムニー」だ。