これまでの追跡結果からいうと、人間の生活圏に1年間ずっと依存しているクマはいませんでした。でも一部のクマは、木の実などの食べ物が減少する夏の時期に、山から人里近くにおりてきて農地に出没していたのです。

 とはいえ、そうしたクマであっても秋になると山に戻り、やがて冬眠して、春は山の中で生活をしています。山での行動範囲は広く、調査したクマの中には隣の岩手県や青森県まで移動するクマがいることも分かりました。

人慣れしたクマを待つ
危険な結末

 冬眠明けのクマは、春先に芽吹いた山中の若葉を食べて体力を回復させます。でも、木々の葉は成熟すると、繊維質が多くなって硬くなります。すると含まれるタンパク質の割合が減って、クマにとって魅力的な食べ物ではなくなります。

 そこで山からおりてきて、農地で咲いているソバや大豆の花を食べたり、リンゴをはじめとする果樹園で摘果され放置されたままの果物を食べたりしていたのです。クマは学習能力がきわめて高く、食べ物がある場所を一度学習すると、同じ場所へ繰り返し出てくるようになります。

 クマの追跡調査は難しく、付けた首輪のGPS機能が不調になったり、首輪そのものが脱落したりすることがあります。また、せっかく首輪を付けて放獣したのに、その後に有害鳥獣対策で捕殺されてしまうこともあります。

 いま追跡が可能なクマは、11頭中2頭までに減ってしまいました。しかし、里に出るクマ、出ないクマの違いは何かというテーマの答えを求めて、研究は継続しています。

 これまで2年間の研究で少なくとも分かったことは、人里に1年中出ずっぱりのクマはいないということです。街中の生ゴミを漁(あさ)るクマの姿がテレビのニュースでよく映し出されますが、その生ゴミだけをエサにして生きているクマはまずいないでしょう。

 そもそも生ゴミは高カロリーで栄養価も高く、自分たちが生きていくのに有効なエサであることを学習したクマは、街中に出没するたびに人を恐れない「人慣れしたクマ」に変わっていき、とても危険なので駆除しなくてはなりません。

 アメリカのある国立公園管理事務所がビジター向けに配布しているバンパーステッカーには、「garbage bear, dead bear」と書かれていて、クマへの安易なエサやりに警鐘を鳴らしています。

 その意味は「生ゴミの味を覚えたクマは、すでに死んだのも同然のクマである。なぜなら、結局のところ捕殺されてしまうクマだからだ」ということです。そうしたクマを生み出さず、人間とクマが適切な距離を取りながら共存していくためには、人間の側から対応していくしか術がありません。