目撃1万件超でも
数字を疑うべき理由

 生ゴミや摘果した果物をはじめ、クマの誘引物の管理を徹底する。山に近い農地はクマが入らないように電気柵で囲う。また、人里に近い場所の草やぶを刈ったり、クマの侵入経路になりやすい川沿いの草刈りを行ったりして、人間とクマの生活圏との間に空間を設ける「ゾーニング」を進めていくことが有効です。

 環境省も各地方自治体に提案しています。しかし、なかなか進展していないのが現実です。

 2024年になると秋田県内でのクマの目撃件数は1409件に低下し、出没状況がいったん落ち着いたかに思われました。ところが、翌25年は1万2956件へ跳ね上がり、26年に入ってからも7月31日時点で2987件という高い水準で推移しています。

 環境省が発表しているクマ類による人身被害の速報値を見ると、秋田県内では26年1月~6月末までに5件の人身被害があり、1名の死亡者を出しています。

 こうしたデータをストレートに受け止めて、過剰に反応する人が少なからずいらっしゃるようです。でも、ここで大切なのは物事を冷静に捉えて判断することです。

 秋田県のクマダスのシステムは、報告する登録者数自体が増えています。その背景として、以前だとクマを目撃しても「いつものことだし、静観しておこう」と思っていた人が、最近の状況を鑑みて敏感に反応して報告するようになったことが考えられます。登録者の絶対数が増えれば、目撃件数も自ずと増えるでしょう。また、歩き回る同じクマを複数の人が目にしたことで、目撃件数が増えている可能性もあります。

 とはいえクマとの距離感は以前と比べて着実に短くなっており、人間はクマに遭わないための努力を惜しんではいけません。山中に入る作業者や行楽者は、クマに人間の存在を知らせることが大切で、その手立ての一つが「クマ鈴」の活用です。

 クマの生態研究の泰斗であるスティーブン・ヘレロ氏は、著書『ベア・アタックス』で「ハイキング中に起きた人身事故のうち、音を立てていたのに襲われたというケースは15%(68件中10件)に過ぎない。音を立てるのはヒグマ(グリズリー)に自分たちの存在を知らせるのに役立ち、突然に遭遇する可能性を小さくすると考えられる根拠はある」と指摘しています。