前例は西九州新幹線
四半世紀揉めた「並行在来線問題」
並行在来線問題の類似例が西九州新幹線である。同線は佐世保線の武雄温泉駅から大村湾沿いを走り長崎に向かう。新大村駅の手前から諫早駅は大村線と完全に「並行」しているが、開業以前の博多~長崎間在来線特急「かもめ」は長崎本線を走っていたため、こちらが並行在来線となる。
しかし、並行在来線は新幹線ルートから地理的に離れており、新幹線の効果を直接受けにくい。にもかかわらず、経営分離のデメリットを被る可能性が高かったことから、佐賀県の沿線1市3町は経営分離に反対し、「JR長崎本線存続期成会」を1992年に結成した。
県が同意したのだから着工してよいのではという声もあったが、国交省は「沿線自治体の同意」とは県だけでなく市町村も含むとの見解を示したため、県は説得を続けた。議論は四半世紀にわたり続いたが、2007年12月に佐賀県・長崎県・JR九州が「肥前山口~諫早間を上下分離し、開業後20年間(後に23年に延長)はJRが運行を行う」ことで合意し、事態は動き出す。
佐賀県知事は「上下分離は経営分離ではないので沿線市町の同意は不要」との見解を示して着工を容認。国交省も追認し、ようやく着工が認められた。
沿線町村は不服だったが、制度上反対の手立てがないとして受け入れざるをえなかった。しかし、JR九州の最大限の譲歩により、少なくとも2045年まではJR線として運行されることとなり、長崎本線特急「かもめ」の停車駅だった肥前鹿島を発着する特急「かささぎ」も新設された。名を捨てて実を取ったと見れば悪い決着ではなかった。
このように、沿線自治体の同意を得ずに事業を推進できる選択肢もある。ただ、西九州新幹線は、佐賀県は推進、沿線市町は反対という構図であった。上下分離の「下」である施設保有団体「一般社団法人佐賀・長崎鉄道管理センター」は佐賀県と長崎県の出資で設立した。北陸新幹線では滋賀県そのものが反対しているため、事情が異なる。
滋賀県は不服かもしれないが、これまでの定義からすれば湖西線は並行在来線である。その上でサンダーバード廃止後も経営分離しない選択が合理的だろう。
なお、福井県も敦賀~小浜間で新幹線と並行する小浜線は並行在来線に該当しないことの確認を求めている。JR西日本は過去、小浜線が並行在来線にあたるとの見解を示したことがあったようだが(2020年6月14日付中日新聞)、前述の定義を踏まえると並行在来線と位置付けることは困難だ。
ただ、小浜線は輸送密度が1000人を切っており、経営分離するなら湖西線ではなく小浜線というのは本音だろう。しかし、仮にそうなったとしても、小浜市が反対すれば着工できない。JR西日本があくまでも経営分離を求めれば着工のハードルになるが、これについては譲歩して収まるのではないだろうか。







