「小さな幸せ」を分かち合う
弱者を見捨てない優しい世界

 けして甘いだけではない「ちいかわ」の世界で、彼らを支えるのが、小さな幸せだ。友人と喜びを分け合い、同じ風景に感動し、仕事の帰りに一緒にラーメンやたこ焼きを食べる。一日一日、少しでも楽しかったと思える瞬間を積み重ねていく。

「ちいかわ」の世界にあるそれらの幸せは私たちの側にも本来あるものだが、社会に生きる中で余裕を失い、またより大きな欲に目がくらみ見えなくなっている。そうした些細な一瞬を、ちいかわは丁寧に描いていく。

 作家の村上春樹は、暮らしの中にある「小さいけれど確かな幸せ」を「小確幸」と表現した。「ちいかわ」が描くのも、まさにその感覚だ。大きな成功はなくとも、そうした小さな幸福を重ねることで、私たちは十分充実した日々を過ごせると、かわいく素直なちいかわたちの姿が気づかせてくれる。

 またちいかわには「くりまんじゅう」というキャラクターがいる。「ちいかわ」の世界では珍しくお酒を飲むキャラクターで、かわいい外見でありながら、バーナーで炙ったしめ鯖やソーセージをつまみにカップ酒や缶ビール、ストロングゼロを飲み「ハァーッ!」と息をはくのがお約束のおじさんキャラだ。けして高いものを食べたり、飲んだりはしていないが、彼もまた自分なりの小さな幸せを楽しんでいる。ある意味、おじさんたちの一つの理想ともいえる。

 労働も貧しさも危険もある。努力が報われないこともある。それでも、ちいかわたちは弱い者を、弱いという理由だけで見捨てない。怖くて動けない者のそばに友達が寄り添い、失敗した者の悲しみを誰かが分かろうとする。

「ちいかわ」の世界は私たちと同じように厳しくても、そこに生きる者たちは、私たちの世界よりほんの少しだけ優しい。だからこそ私のようなおじさんは彼らの姿に癒やされ、涙してしまうのだ。