孫の方法は、この仕組みに重なる。ロボット事業を任せる行為は強烈な発達的挑戦である。仕事を渡して放置もしない。成果物を細かく見て、甘い部分を突く。担当者の説明ではなく、経営者の判断を求める。

 担当者は与えられた範囲で正解を探す。責任者は正解のない状況で決める。数字がそろわなくても、事実と推定を分け、判断に使える形へ仕上げる。孫は逃げられない状況をつくり、実際にやらせる。

期待が成果を
押し上げる

 もう1つの軸が期待である。上司が「この人は成長できる」と期待して接すると、部下の成果も実際に高まりやすい。

 キアラインとゴールドが2000年に発表した「職場組織におけるピグマリオン効果」のメタ分析」では、13の研究を統合した結果、上司の高い期待が部下の成果を押し上げる傾向が確認された。

 期待は優しい言葉ではない。重要な仕事を任せる。高い基準を置く。成果を見続ける。再提出を求める。孫の期待は仕事の重さに表れる。「お前はこの程度で終わる人間ではない」という判断が、高い要求へ変わる。

 宮内のメールは、厳しさを育成へ変えた。叱責だけなら拒絶しか伝わらない。「期待している」と示されたことで、冨澤は翌日の再挑戦へ向かった。

怒声だけでは
組織を壊す

 この育成法には明確な危険がある。6時間叱責し、深夜に追加指示を出し、短時間で修正を迫る。精神力と体力への負荷が大きい。誰にでも使える方法ではない。怒声だけをまねる上司は組織を壊すことになる。

 怒鳴ることは簡単だ。難しいのは、部下の可能性を見抜き、本物の仕事を渡し、変化した瞬間に評価を改めることだ。

 孫は昨日の失敗を今日まで引きずらない。取り組みが変われば評価も変え、より大きな仕事を渡す。人を育てるとは、研修を増やすことではない。失敗を防ぐために細かく管理することでもない。今の能力を超える仕事を渡し、考え抜かせ、変化した瞬間を認めることである。

 多くの経営者は、安全な仕事しか任せず、「任せられる人材がいない」と嘆く。

 孫は現在の実力だけを見ない。責任を与えた後に、どこまで伸びるかを見る。