
シマケン対横沢 最終決戦
別の日。雨。シマケンが花を持って一ノ瀬家にやってくる。前回と同じく質素な白い花だが、前回より少しボリュームがあるように筆者には見えたが気の所為だろうか。
そこへ横沢がまた現れて。
「また墓参りですか?」と嫌味。
今度は引かないぞ、という気概を見せるシマケンに横沢は強烈な一打。
「私はあなたよりりんさんを幸せにすることができます。りんさんの家族をまるごと養うことができる」
シマケンは「そう思います」といったん受け止めて、ついにはっきり自分の思いをぶつけた。
「僕がりんさんを幸せにするとは言えない。だけど他の誰かといるのも嫌なんです!嫌だ!」
この会話を、家のなかでりんが聞いている。いまより日本家屋は気密性が低く、立ち聞きしやすいとはいえ、自分を取り合う男ふたりの会話を縁側で聞き耳を立てているなんて、わりとすごいシチュエーションだ。
ここで、どっちがりんをわかっているか対決がはじまる。りんは凛として強い(ダジャレか)。そこに惹かれたと言う横沢。
ほんとうにそうかと、シマケンは、りんへの解像度の高さを見せつける。第97回では、あんなにたっぷりりんの長所を語っていた横沢だが、ここではシマケンのほうが饒舌だ。
「初めから立派な人のように言うな!」
事実をもとに書くジャーナリストの横沢は、自分が見たもの聞いたものを重視している。一方、小説家のシマケンは、想像力で勝負する。シマケンは、いまの強いりんだけでなく、そこに至るまでの弱さや迷いも捉えようとしている。
たぶん、この時点で横沢は、自身の洞察力の低さを感じたのであろう。
「そんなりんさんに島田君は花を持ってくるだけですか?」と一応、まだ戦う姿勢を見せ、先に玄関に向かう。
玄関を開けるとりんが傘をもって立っている。
このとき横沢も、言葉にしないりんの気持ちに気づいているだろう。
「やっぱり面白い人だな。わざわざまっとうな道を外れるとは」
もはや勝ち目がないことをわかっている横沢に、りんは深くお辞儀をすると、シマケンのほうへと歩を進める。
りんはシマケンに傘を差しかける。横沢は帽子をとって濡れて去る。勝者は傘を差し掛けられ、敗者は雨に濡れる。
「これで最後のつもりで退路を断って小説にすべてを注ぐ」と言うシマケンに
「待ちます」とりん。
シマケンは震える手で花を手渡す。相合い傘のラブシーンは『あんぱん』の蘭子(河合優実)と八木(妻夫木聡)の名場面(第112回)を思い出す。
だが、濃密だった『あんぱん』に比べたらこちらは初々しい。
自分の力で、と言っていたりんは、シマケンの経済力に頼らず、むしろシマケンを支えることが、他人の世話にならないという意味でプライオリティが高いのだろう。
でも、「これで最後のつもりで書評もやめて退路を断って、小説の執筆にすべてを注ぐ」なんて言う人はやばいぞ。ダメ男に尽くしてしんどくなるパターンである。シマケンは今のところ、りんに何もかも背負わせる人物ではなさそうなので、心配ないとは思うけれど。







