年間数百万台の自社カメラ向けを中心に大型センサーを生産するキヤノンと、スマートフォンなど巨大な市場まで含めてイメージセンサー事業を展開するソニーとでは、固定費を回収する母数がまるで違う。もちろん、スマートフォン用の小型センサーとフルサイズカメラ用の大型センサーを単純に同じ一個として数えることはできない。製造プロセスも歩留まりも異なる。
それでも、研究開発、プロセス技術、設備、人材、材料調達などを含む事業全体の規模では、ソニーに大きな優位性があることは間違いない。
自社開発の技術が優れていれば
それで十分なのか
ここで重要なのは、キヤノンのCMOS技術が優れているかどうかという議論と、CMOSを自社工場で生産することに経済合理性があるかどうかは、別の問題だということだ。キヤノンがCMOSを自社開発するメリットは大きい。センサー、AF、DIGIC、レンズなどを一体として設計できれば、EOSというカメラシステム全体を最適化できる。他社に重要技術を依存しないこともメリットである。これは20世紀に多くの日本企業が実現した垂直統合による差別化戦略そのものだ。
しかし、経営の観点から考えるなら、技術的な差別化は最終的に経済的な価値に転換されなければならない。垂直統合によってコストが増えるのであれば、その分、(1)競合より高い価格で売れる、(2)競合より多く売れる、(3)外部から購入するより安く作れる、のいずれかが必要になる。
キヤノンのカメラが、CMOSを自社生産しているからソニーより明確に高い価格で販売できているというデータは、少なくとも公表資料からは確認しにくい。そうなると、キヤノンのCMOS内製を経済的に支える重要な要素の一つは「数量」、つまり世界トップのカメラシェアということになる。
ところが、その前提が揺らいだらどうなるだろうか。
キヤノンのシェアが落ちると
何が起きるのか
ここで簡単なモデルを考えてみよう。以下はキヤノンの実際のCMOS製造コストを推計するものではなく、あくまで規模の経済の構造を理解するための仮想モデルである。
仮に世界のレンズ交換式カメラ市場を年間700万台、キヤノンのCMOS生産に関係する固定費を年間300億円とする。キヤノンのシェアが45%なら315万台だから、一台当たりの固定費負担は約9500円になる。40%なら280万台となり約1万700円。35%なら245万台で約1万2200円。30%まで低下すれば210万台となり約1万4300円になる。25%なら約1万7100円だ。
もちろん実際の原価計算はこれほど単純ではない。しかし、このモデルが示していることは重要だ。キヤノンはカメラのシェアを落とすと、単に売れるカメラが減るだけではない。自社のCMOS工場の固定費を負担する製品数まで減るため、センサー一個当たりの固定費負担が増えてしまうのである。
つまり、「シェア低下→カメラ販売減少→CMOSの一個当たり固定費上昇→カメラの収益性低下」という、規模の経済の「逆回転」が起こり得る。これに対してソニーは、αの販売台数だけでイメージセンサー事業を支えているわけではない。ここに両社の競争条件の非対称性がある。







